2016-11-15(Tue)
SWEET DISTANCE 7 - Cloud Birthday 2016 -
こんにちは、ももこです。
クラ誕SS7話、前半UPします。
最近一話を半分ずつしか書けなくてすみません……もっと文字数書きたいんですけど時間が経つの速過ぎて追いつかないのです(>_<)
読み辛いかと思いますが、週一の更新頻度を確保したいのでどうかお許しを~(>_<)
さて、この前半はクラティ要素は無く淡々と進みます。
後半に少し出てくる程度かな??
CP要素期待されてる方はもうしばしお待ち下さい(^_^;)
後半は今週中にUP出来たら良いなと思います。
それではまた来ますね!
拍手&閲覧ありがとうございました(*^_^*)
セフィロスに下さった方もありがとうございました!
クラティサイトなので他キャラはあんまり歓迎されないかな~と思いつつ、萌えの赴くまま描いちゃいました(*^_^*)
そのうちクラウドと絡ませる事もあるでしょうが、基本的にⅦにはBL要素は入れないつもりですので(リクエスト来たら鍵付きで描くかもしれませんが…)苦手な方はご安心下さい~(*^^)v
【Warning!】クラ誕SS7話です。クラウド視点。前半のみ、CP要素はほぼ皆無です。ティファが彼女に手渡したものは暫定設定でリンゴ味です。ネットで調べたところ、糖分は乗り物酔いの予防に効果的だそうです。続きます。11/28後半UP。
SWEET DISTANCE 7
「おい、大丈夫か?……ユフィ!?」
声を掛けながらその人物の傍へ行くと、その正体は俺達の良く知っている顔───ユフィだった。
「ユフィ、どうしたの?」
「……クラウド?……ティファ……」
けれど、その様子は普段の少女のそれとは大分違っていて、さっきまでの奔放は振る舞いはなりを潜め、代わりにぐったりとして床に座り込んでいた。
抱えた両足の膝の間に顔を埋め突っ伏している。
そんなユフィに、心配そうに眉を寄せるティファと二人腰を落として様子を窺う。
「……なにさ。なんか用?」
「何って……お前こそどうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「……見りゃ分かるでしょ……いつもの船酔いだよ」
「船酔い?まだ出発してないが……」
顔を上げ艇内を確認する。
すると、沈んだ頭がふるふると横に揺れた。
「もうすぐ…出発するんでしょ?そう思ったら……だんだん気持ち悪くなってきて…、っう」
「ユフィ、無理しないで」
「ティファ……」
ティファの名を呼ぶ声は弱々しく、僅かに上げた顔色は酷く青白い。
そう言えば………以前ジュノンで密航した時もユフィの様子がおかしかったような気がする。
あの時は神羅に気付かれないよう必死で、あまり気にしていなかったけれど。
「薬は?飲んだのか?」
「あんなの効かないよ……飲むだけ無駄」
「飲んでみなきゃ判らないだろ」
「いいよ、別に……そもそも持ってないし。アタシなら平気……ほっといてよ……」
「ユフィ……」
再び頭を伏せ微かに背を震わせるユフィを労わるように、ティファの掌がそっと撫でる。
そして俺はそんな二人を横で見下ろしながら、その様子にどうしたものかと首を傾げた。
「外の空気でも吸って来たらどうだ?」
「それは駄目よ。出発の時甲板に出てたら危ないわ」
思いついた提案をすぐさまティファに却下され、それならどうする、と彼女に向けて肩を竦める。
すると、ティファが何かを思い出したように大きく瞳を瞬いた。
「ちょっと待って。確か……」
一人呟きながら、腰に着けた小さなポシェットの中を探る。
「あ、あった」
小さく声を弾ませ彼女が手に取ったのは、カラフルな包み紙に彩られた一粒の飴玉だった。
「飴玉?」
「ううん。酔い止めのお薬。前に薬局で買っておいたの」
「…薬?」
……それはどう見てもティファ達がおやつに良く口にしている飴玉じゃないのか?
怪訝に思いながら彼女を窺うと、人差し指を口元に当て軽く片目を弾かれた。
「……、……」
(黙っていろという事か…?)
取り敢えずティファの望むままこくりと頷くと、彼女もまたにこりと笑って応えた。
ティファの指先が包み紙から中身を取り出していく。
ころりと掌に零れたそれをユフィの前に差し出した。
「ユフィ、これ、甘くてとっても良く効くお薬よ」
「いらない」
ゆっくりと、耳元で囁くようにティファが言う。
けれど、頭を伏せた少女はただ膝に額を押し付けたまま首を振る。
「良いの?本当に良く効くのよ?私も飲んでみたけど、すぐに良くなったわ」
「……、……」
続けて、先程よりも優しくティファが囁く。
その声に、やっと伏せた頭が上がった。
「……本当?」
「嘘なんて吐かないわ。ね、騙されたと思って試してみない?」
そう言って、掌のそれをユフィに見せた。
少女の黒い瞳が不思議そうに瞬く。
「……変な形。飴玉みたい」
「でも、効果は抜群よ」
「……」
本物の飴玉と知ってか知らずか、ユフィの指先が素直にそれを受け取り舌の上に乗せた。
「甘い…」
「でしょ?」
ティファの瞳が優しく微笑う。
「ゆっくり溶かすように舐めてみて。噛んじゃ駄目よ」
「ん…」
「………」
もごもごと口を動かし、時折辛そうに顔を歪めるユフィと、それを見守るティファ。
俺はただ黙って二人を見守る。
しばらくして。
「…どう?」
「ん……なんだかさっきより良くなってきたみたい」
こくりと喉を鳴らし、小さく頷きながらユフィが顔を上げた。
その顔色は先程より幾らか和らいだように見える。
大きな瞳にも光が戻り、いつもの負けん気が息衝いていく。
「うん。なんだかアタシ、へーきみたい」
「良かった」
ティファが嬉しそうに目元を綻ばせながらユフィの頭を撫で俺を見上げた。
俺もそれに頷いて応える。
「ユフィ、ジュノンに着くまで部屋で休んでろよ」
「ん~そうする。…っと!」
溜め息と共に投げた言葉を受け止めながら、ユフィがよろける身体をティファに支えられて立ち上がった。
「大丈夫?一人で行ける?」
「ん、へーき。ありがと!」
背中を支えながら問うティファに笑いながら頷くと、彼女の腕をするりとすり抜け俺達の後ろに飛び出した。
その仕草はいつものユフィのそれに近い。
(……大丈夫そうだな)
ふ、と息を吐き、そのまま部屋へと続く通路に向かって歩き出した背中を見送る。
すかさず、隣にいたティファが声を掛けた。
「ユフィ、無茶しちゃダメよ。何かあったらすぐに言ってね!」
「オッケー」
ヒラヒラと片手を振りながら応える背中が通路の奥へと消えていく。
「大丈夫かしら…」
「部屋で休むって言ってるんだ。大丈夫だろ。……それより、あれって本当に薬だったのか?」
「え?」
ぱちくりと眼を瞬かせるティファに、それ、と彼女が手に持つ空の包み紙を目線で指した。
「ああ、これね」
目線の高さに包み紙を乗せ、クス、とティファが笑う。
「ティファ?」
「ただの飴玉よ」
「騙したのか?」
どうして、と普段真面目な彼女にしては意外だと眼を瞠る。
それが可笑しかったのか、ティファの笑みが深くなって益々困惑してしまった。
「ティファ?」
「別に騙したわけじゃないよ。ただの飴玉っていうのも、お薬っていうのも本当」
「??どういう事だ?」
相変わらず言葉の要領を得る事が出来ないまま眼を瞬かせていると、ティファがポシェットからもう二つ程飴玉を取り出して掌に転がした。
「前にね、ミディールのお医者様から聞いたんだけど……」
ミディールの医者……俺が魔晄中毒に羅患していた頃に世話になった医者か。
「乗り物酔いに罹りやすい人には糖分補給が効くんだって教えてくれたの」
「糖分?」
「うん。飴玉ってお砂糖でしょ?だから……ね」
そう言って包み紙を剥き、今度は自分の口にぱくりと放り込んだ。
包み紙を丁寧に折り畳む彼女の口元が飴の形に小さく動く。
溶け出た水分が桜色の唇の表面をつるりと濡らしていく。
「でも本当は酔ってからじゃ効果が薄いみたい。予防する為に前もって食べておくのが一番らしいんだけどね」
「予防?……でも、あいつ、治ったみたいだったけど」
艶やかな唇から外した目線の先、先程のユフィの様子を思い出して肩を竦めると、隣から、ん~、と小さく呻り声が聞こえて再度そこへ目線を戻した。
ふわりと、ティファが苦笑を浮かべる。
「乗り物酔いの原因って、色々あるみたいなの。専門的には内耳にある三半規管の問題らしいんだけど、その他にも臭いや精神的なものも原因としてあるそうよ」
「精神的?」
「"また酔うんじゃないか"という不安とか。要するに、気分の問題ね」
「……それはつまり、思い込み、という事か?」
「そう」
確かに。
あの性格では思い込みも激しそうだ。
「あいつらしいな」
「思い込みを解消させるには、更に上を行く思い込みが必要でしょ?だから、これ」
「"薬"として飴玉の登場って訳か」
ティファの掌で飴玉がころりと転がる。
「そうなの。酔い止めに効くのは本当だから、まるきり騙した訳じゃない……と、思うんだけど」
手に持つ飴玉に少しばかりバツの悪そうな苦笑を浮かべる彼女が、ちらりと伺うような視線を向けてきた。
「……まあ、そうかもな。実際に効いてたしな」
それに答えるように目元を和らげながら肩を竦めると、ほっとしたような笑顔を浮かべた。
躱す視線と同じ温度で、ティファの口元からふんわりと甘酸っぱい香りが漂ってくる。
「………」
鼻腔を優しく擽るその香りに誘われるように彼女のそこへ視線を送ると、濡れた唇に細い指が触れた。
「……クラウド?何?何か付いてる?」
「…え?」
やだ、と唇を指で拭うティファの顔がみるみる赤く色付いていく。
それを見てはっと我に返るも、どうやらそこを凝視していたらしく、彼女の口元はしっかりと両手で隠されてしまった後だった。
「あっ…、いや、違…」
「もう、クラウド。早く言ってよ。恥ずかしいじゃない…」
「………、……」
違うんだ、と言葉に出すタイミングは、早々に結論付けて口元を擦るティファの手に消されてしまった。
行き場を失くしたそれが喉の奥に飲み込まれていく。
先程まで眼の前で艶やかに煌めいていた桜色も形を失くし、代わりに林檎のように赤くなった頬がこちらへ向いた。
「……もう大丈夫?」
口元を隠し、ティファが恐る恐る問う。
「…ん」
「良かった」
頷いてそれに返すと、ほっとしたように手を解き溜め息を零した。
(……最初から大丈夫だったんだけどな)
気付かれないように息を吐き、まあいいかと、心の中で一人呟いていると、ティファがあっ、と声を出して残りの飴玉を俺の前に差し出した。
「ごめんなさい、私ばっかり食べて。クラウドもどう?」
「俺は……いいよ。遠慮しておく」
「あ…そうよね」
差し出されたそれを軽く首を振って断ると、少し残念そうな表情でそれをポシェットの中に仕舞いこんだ。
「でも、もし欲しくなったら言ってね。酔いそうな時もね」
「ああ」
………ティファには悪いが、正直甘いものは得意じゃない。
それに、俺は船酔いなんてした事ないから必要ない───大丈夫だ。
(……大丈夫?)
………本当に?
(なんだ……何か忘れている気がする)
「クラウド?どうしたの?」
「いや……何でもないよ」
何か頭に引っかかる。
けれど、その形を捉えるよりも先に奥の方でシドの呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、急がなくちゃ。行きましょう、クラウド」
「ああ」
(きっと大した事じゃない。……多分)
思い出せないものはしょうがない。
まあいいか、と、一抹の不安を抱えながらティファと共にシドの待つブリッジへと歩き出した。
───その数分後、俺はティファの申し出を断った事を激しく後悔する事になる。
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クラ誕SS7話
最近一話を半分ずつしか書けなくてすみません……もっと文字数書きたいんですけど時間が経つの速過ぎて追いつかないのです(>_<)
読み辛いかと思いますが、週一の更新頻度を確保したいのでどうかお許しを~(>_<)
さて、
後半に少し出てくる程度かな??
CP要素期待されてる方はもうしばしお待ち下さい(^_^;)
それではまた来ますね!
拍手&閲覧ありがとうございました(*^_^*)
セフィロスに下さった方もありがとうございました!
クラティサイトなので他キャラはあんまり歓迎されないかな~と思いつつ、萌えの赴くまま描いちゃいました(*^_^*)
そのうちクラウドと絡ませる事もあるでしょうが、基本的にⅦにはBL要素は入れないつもりですので(リクエスト来たら鍵付きで描くかもしれませんが…)苦手な方はご安心下さい~(*^^)v
【Warning!】クラ誕SS7話です。クラウド視点。
SWEET DISTANCE 7
「おい、大丈夫か?……ユフィ!?」
声を掛けながらその人物の傍へ行くと、その正体は俺達の良く知っている顔───ユフィだった。
「ユフィ、どうしたの?」
「……クラウド?……ティファ……」
けれど、その様子は普段の少女のそれとは大分違っていて、さっきまでの奔放は振る舞いはなりを潜め、代わりにぐったりとして床に座り込んでいた。
抱えた両足の膝の間に顔を埋め突っ伏している。
そんなユフィに、心配そうに眉を寄せるティファと二人腰を落として様子を窺う。
「……なにさ。なんか用?」
「何って……お前こそどうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「……見りゃ分かるでしょ……いつもの船酔いだよ」
「船酔い?まだ出発してないが……」
顔を上げ艇内を確認する。
すると、沈んだ頭がふるふると横に揺れた。
「もうすぐ…出発するんでしょ?そう思ったら……だんだん気持ち悪くなってきて…、っう」
「ユフィ、無理しないで」
「ティファ……」
ティファの名を呼ぶ声は弱々しく、僅かに上げた顔色は酷く青白い。
そう言えば………以前ジュノンで密航した時もユフィの様子がおかしかったような気がする。
あの時は神羅に気付かれないよう必死で、あまり気にしていなかったけれど。
「薬は?飲んだのか?」
「あんなの効かないよ……飲むだけ無駄」
「飲んでみなきゃ判らないだろ」
「いいよ、別に……そもそも持ってないし。アタシなら平気……ほっといてよ……」
「ユフィ……」
再び頭を伏せ微かに背を震わせるユフィを労わるように、ティファの掌がそっと撫でる。
そして俺はそんな二人を横で見下ろしながら、その様子にどうしたものかと首を傾げた。
「外の空気でも吸って来たらどうだ?」
「それは駄目よ。出発の時甲板に出てたら危ないわ」
思いついた提案をすぐさまティファに却下され、それならどうする、と彼女に向けて肩を竦める。
すると、ティファが何かを思い出したように大きく瞳を瞬いた。
「ちょっと待って。確か……」
一人呟きながら、腰に着けた小さなポシェットの中を探る。
「あ、あった」
小さく声を弾ませ彼女が手に取ったのは、カラフルな包み紙に彩られた一粒の飴玉だった。
「飴玉?」
「ううん。酔い止めのお薬。前に薬局で買っておいたの」
「…薬?」
……それはどう見てもティファ達がおやつに良く口にしている飴玉じゃないのか?
怪訝に思いながら彼女を窺うと、人差し指を口元に当て軽く片目を弾かれた。
「……、……」
(黙っていろという事か…?)
取り敢えずティファの望むままこくりと頷くと、彼女もまたにこりと笑って応えた。
ティファの指先が包み紙から中身を取り出していく。
ころりと掌に零れたそれをユフィの前に差し出した。
「ユフィ、これ、甘くてとっても良く効くお薬よ」
「いらない」
ゆっくりと、耳元で囁くようにティファが言う。
けれど、頭を伏せた少女はただ膝に額を押し付けたまま首を振る。
「良いの?本当に良く効くのよ?私も飲んでみたけど、すぐに良くなったわ」
「……、……」
続けて、先程よりも優しくティファが囁く。
その声に、やっと伏せた頭が上がった。
「……本当?」
「嘘なんて吐かないわ。ね、騙されたと思って試してみない?」
そう言って、掌のそれをユフィに見せた。
少女の黒い瞳が不思議そうに瞬く。
「……変な形。飴玉みたい」
「でも、効果は抜群よ」
「……」
本物の飴玉と知ってか知らずか、ユフィの指先が素直にそれを受け取り舌の上に乗せた。
「甘い…」
「でしょ?」
ティファの瞳が優しく微笑う。
「ゆっくり溶かすように舐めてみて。噛んじゃ駄目よ」
「ん…」
「………」
もごもごと口を動かし、時折辛そうに顔を歪めるユフィと、それを見守るティファ。
俺はただ黙って二人を見守る。
しばらくして。
「…どう?」
「ん……なんだかさっきより良くなってきたみたい」
こくりと喉を鳴らし、小さく頷きながらユフィが顔を上げた。
その顔色は先程より幾らか和らいだように見える。
大きな瞳にも光が戻り、いつもの負けん気が息衝いていく。
「うん。なんだかアタシ、へーきみたい」
「良かった」
ティファが嬉しそうに目元を綻ばせながらユフィの頭を撫で俺を見上げた。
俺もそれに頷いて応える。
「ユフィ、ジュノンに着くまで部屋で休んでろよ」
「ん~そうする。…っと!」
溜め息と共に投げた言葉を受け止めながら、ユフィがよろける身体をティファに支えられて立ち上がった。
「大丈夫?一人で行ける?」
「ん、へーき。ありがと!」
背中を支えながら問うティファに笑いながら頷くと、彼女の腕をするりとすり抜け俺達の後ろに飛び出した。
その仕草はいつものユフィのそれに近い。
(……大丈夫そうだな)
ふ、と息を吐き、そのまま部屋へと続く通路に向かって歩き出した背中を見送る。
すかさず、隣にいたティファが声を掛けた。
「ユフィ、無茶しちゃダメよ。何かあったらすぐに言ってね!」
「オッケー」
ヒラヒラと片手を振りながら応える背中が通路の奥へと消えていく。
「大丈夫かしら…」
「部屋で休むって言ってるんだ。大丈夫だろ。……それより、あれって本当に薬だったのか?」
「え?」
ぱちくりと眼を瞬かせるティファに、それ、と彼女が手に持つ空の包み紙を目線で指した。
「ああ、これね」
目線の高さに包み紙を乗せ、クス、とティファが笑う。
「ティファ?」
「ただの飴玉よ」
「騙したのか?」
どうして、と普段真面目な彼女にしては意外だと眼を瞠る。
それが可笑しかったのか、ティファの笑みが深くなって益々困惑してしまった。
「ティファ?」
「別に騙したわけじゃないよ。ただの飴玉っていうのも、お薬っていうのも本当」
「??どういう事だ?」
相変わらず言葉の要領を得る事が出来ないまま眼を瞬かせていると、ティファがポシェットからもう二つ程飴玉を取り出して掌に転がした。
「前にね、ミディールのお医者様から聞いたんだけど……」
ミディールの医者……俺が魔晄中毒に羅患していた頃に世話になった医者か。
「乗り物酔いに罹りやすい人には糖分補給が効くんだって教えてくれたの」
「糖分?」
「うん。飴玉ってお砂糖でしょ?だから……ね」
そう言って包み紙を剥き、今度は自分の口にぱくりと放り込んだ。
包み紙を丁寧に折り畳む彼女の口元が飴の形に小さく動く。
溶け出た水分が桜色の唇の表面をつるりと濡らしていく。
「でも本当は酔ってからじゃ効果が薄いみたい。予防する為に前もって食べておくのが一番らしいんだけどね」
「予防?……でも、あいつ、治ったみたいだったけど」
艶やかな唇から外した目線の先、先程のユフィの様子を思い出して肩を竦めると、隣から、ん~、と小さく呻り声が聞こえて再度そこへ目線を戻した。
ふわりと、ティファが苦笑を浮かべる。
「乗り物酔いの原因って、色々あるみたいなの。専門的には内耳にある三半規管の問題らしいんだけど、その他にも臭いや精神的なものも原因としてあるそうよ」
「精神的?」
「"また酔うんじゃないか"という不安とか。要するに、気分の問題ね」
「……それはつまり、思い込み、という事か?」
「そう」
確かに。
あの性格では思い込みも激しそうだ。
「あいつらしいな」
「思い込みを解消させるには、更に上を行く思い込みが必要でしょ?だから、これ」
「"薬"として飴玉の登場って訳か」
ティファの掌で飴玉がころりと転がる。
「そうなの。酔い止めに効くのは本当だから、まるきり騙した訳じゃない……と、思うんだけど」
手に持つ飴玉に少しばかりバツの悪そうな苦笑を浮かべる彼女が、ちらりと伺うような視線を向けてきた。
「……まあ、そうかもな。実際に効いてたしな」
それに答えるように目元を和らげながら肩を竦めると、ほっとしたような笑顔を浮かべた。
躱す視線と同じ温度で、ティファの口元からふんわりと甘酸っぱい香りが漂ってくる。
「………」
鼻腔を優しく擽るその香りに誘われるように彼女のそこへ視線を送ると、濡れた唇に細い指が触れた。
「……クラウド?何?何か付いてる?」
「…え?」
やだ、と唇を指で拭うティファの顔がみるみる赤く色付いていく。
それを見てはっと我に返るも、どうやらそこを凝視していたらしく、彼女の口元はしっかりと両手で隠されてしまった後だった。
「あっ…、いや、違…」
「もう、クラウド。早く言ってよ。恥ずかしいじゃない…」
「………、……」
違うんだ、と言葉に出すタイミングは、早々に結論付けて口元を擦るティファの手に消されてしまった。
行き場を失くしたそれが喉の奥に飲み込まれていく。
先程まで眼の前で艶やかに煌めいていた桜色も形を失くし、代わりに林檎のように赤くなった頬がこちらへ向いた。
「……もう大丈夫?」
口元を隠し、ティファが恐る恐る問う。
「…ん」
「良かった」
頷いてそれに返すと、ほっとしたように手を解き溜め息を零した。
(……最初から大丈夫だったんだけどな)
気付かれないように息を吐き、まあいいかと、心の中で一人呟いていると、ティファがあっ、と声を出して残りの飴玉を俺の前に差し出した。
「ごめんなさい、私ばっかり食べて。クラウドもどう?」
「俺は……いいよ。遠慮しておく」
「あ…そうよね」
差し出されたそれを軽く首を振って断ると、少し残念そうな表情でそれをポシェットの中に仕舞いこんだ。
「でも、もし欲しくなったら言ってね。酔いそうな時もね」
「ああ」
………ティファには悪いが、正直甘いものは得意じゃない。
それに、俺は船酔いなんてした事ないから必要ない───大丈夫だ。
(……大丈夫?)
………本当に?
(なんだ……何か忘れている気がする)
「クラウド?どうしたの?」
「いや……何でもないよ」
何か頭に引っかかる。
けれど、その形を捉えるよりも先に奥の方でシドの呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、急がなくちゃ。行きましょう、クラウド」
「ああ」
(きっと大した事じゃない。……多分)
思い出せないものはしょうがない。
まあいいか、と、一抹の不安を抱えながらティファと共にシドの待つブリッジへと歩き出した。
───その数分後、俺はティファの申し出を断った事を激しく後悔する事になる。
Next...
