2016-01-31(Sun)

素敵な小説を頂きました!

こんにちは、ももこです。

寒い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか(^^)
私は今が仕事が一番忙しい時期でして、昨年末から3月いっぱいまで残業続きの毎日です(>_<)
朝8時半~夜9時までの勤務が月~土まで続きます…お休みは日曜だけ…体力持つのだろうか(^_^;)
今の仕事を始めてから10年以上この生活続けてますが、やっぱりもう少しお休みが欲しいな~趣味の時間少なすぎてツライ・゚・(つД`)・゚・

さて、今日は、お世話になっている素敵サイト様【Eternity】の那由多様からリクエスト作品を頂いたのでサイトへ飾らせて頂きました!
とっても可愛くてラブラブなクラティ小説(現パロ)です(*^_^*)
動物好きな方も是非(*^^)v
続きからお入り下さい(^^)
頂いた小説は続き物の二作目に当たりますので、一作目は那由多様のサイトでご覧下さい。

そして!!
今日はⅦの19回目のお誕生日ですね!
おめでとうございます~☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
何か描いてお祝いしたい…けど、イラストは仕上げるまで時間かかるので、時期が過ぎてからになると思いますが、何かしら描いてお祝いしたいと思ってます(*^_^*)
今はイラストより文章でクラティを表現したい気分…よしっ、続き書かなきゃ!
それではまた来ますね!
拍手&閲覧ありがとうございました(*^_^*)





──ティファ…

逞しい胸に抱き寄せられ、見上げるとふわりとクラウドが優しい笑みを浮かべる。吸い込まれるような、切なげな色を滲ませた蒼い瞳を細めた彼はやや首を傾けるとゆっくりと顔を寄せる。ティファは思わず息を呑み、顔を背けた。

だめよ…!クラウド…!

──どうして?

首を傾げるクラウドの瞳をちらりと見ると、俯いたティファが呟く。

だって…あなたは猫だもの…

青玉の瞳に悲哀を滲ませるクラウドに胸が締め付けられ、ティファは唇を噛んだ。

猫だもの…



ぐいと抱き寄せられ、ティファは目を醒ました。夢の名残の息苦しさとは別の圧迫感と同時に眼前に迫る肌の色。触れ合った肌からはティファより幾分か高い体温がダイレクトに伝わり、一瞬の後に現状を理解したティファが真っ赤になる。
「ク…クラウドっ!!」
しかし、がっちりと抱き竦められた身体はもぞもぞともがくのがせいぜいで、完全に自由を奪われてしまっている。
「こらっ!クラウドってば…!起きなさい!!」
ぴくりと反応をしたクラウドが緩慢に目蓋を上げた。まだぼんやりとした様子の彼の身体をぐっと押すと、焦点の合っていない蒼い瞳を見据える。

「ね…寝てるときは人間の姿になっちゃだめってあれほど言ってるじゃない!」
拘束が解けるとベッドから飛び出して、タンクトップの前を掴んだティファが柳眉を逆立てる。とはいえ、真っ赤な顔と震え声で言われたとて、迫力など微塵も無い。

「……どうして?」
むくりと上半身を起こしたクラウドが頭を掻き、安眠を妨害されたことに対する不服を身体全体に滲ませながら言った。勿論、安眠の元が腕の中から逃げ出したことが彼の一番の不満であることは言うまでもないことである。
「な…いつも言ってるでしょ!!どうしても!」
溜め息を吐いたクラウドが大きく伸びをしシーツを捲る。
「ちょ…!だから何か着てって…!」
黒いスウェットのズボン1枚のクラウドの姿に飛び上がり、慌てて背を向けるティファを後ろから抱き締めるとクラウドは、ぺろりとティファの耳に舌を這わせる。
「おはよう、ティファ………腹減った」
「~~~~~~!!!」
耳を押さえ、払うように腕を大きく振ったティファのそれが空を切る。
足元にちょこんと座った黒猫がティファの顔を見つめにゃあと鳴いた。


BLUE SAPPHIRE 2


「…はぁ…」
溜め息を吐きながらティファはデスクの下にきちんと納められた椅子を引き、すとんと腰掛けた。
「どうしたの?朝から溜め息なんて吐いて。…彼氏と喧嘩?」
エアリスが隣のデスクからティファの顔を覗き込んで、意味深な笑みを浮かべる。
「だ…だから、彼氏なんて居ないって…」
僅かな狼狽を見せつつパソコンの電源を入れたティファがエアリスを見る。
「…クラウドのせいで、よく寝られなくて…」
目を瞬くエアリスに何かおかしな事を言ってしまったかとティファは慌てて「猫の…」と付け加えた。
「…分かってるわよ。例の黒猫ちゃんでしょ?そんなに寝相悪いの?猫のくせに」
エアリスが小さく噴き出す。
「そ……そうなの!猫のくせに…!おかしいでしょ?」
「猫って眠るときはじっと動かないイメージあるけど…意外ね。うちの犬は暴れん坊だけど」
「ね…猫にも色々居るんじゃないかな…」
内心穏やかではないティファが空笑いを浮かべ、意味もなく手元の書類を捲った。

「ふぃ~っ!ギリギリセーフ!」
ユフィがオフィスに飛び込んで来ると同時に朝礼のチャイムが鳴る。
「…も。ギリギリセーフじゃないよ。10分前出社が社会人としての常識」
エアリスが腰に手を当てて呆れたように言った。
「だって…目覚まし時計が鳴らなかったんだもん」
「毎日?」
「うっ…」
エアリスの意識がユフィに向いたことに胸を撫で下ろしたティファが「朝礼始まるわよ」とふたりを促した。


ティファの勤める会社では、就業時刻のチャイムと共に各部署で朝礼が始まる。その日の各自の予定、クライアントからの受注内容、また部署を跨いだ業務の確認など各々が把握することにより、正確かつ円滑な業務を行う為だ。

「ねぇ、あの人誰かな…?」
隣のユフィが耳打ちし、ティファは端に立った見慣れない男をちらりと見た。先程ティファも同じ事を思ったところだ。
黒髪に深紅の瞳の男は、黒に近いダークグレーのスーツを身に着け、やや俯き加減でじっと立っている。
小さく首を横に振るティファにエアリスも肩を竦める。

「以上が今日の予定だ。まぁ、皆それぞれに頑張ってくれや。後…バレンタイン」
シドと視線が合った男が小さく頷き、シドの隣に立つ。
「…この度本社から人事異動になったヴィンセント・バレンタインです。……よろしくお願いします」
手短に挨拶し、ぺこりと頭を下げると押し黙った彼に小声で「もういいのか?」とシドが訊ねる。頷く彼を見て、頭を掻いた後シドが皆を見ながら言った。
「まぁ、そういうこった。よろしく頼むわ。じゃ、解散!」
シドの一言でぱらぱらとそれぞれが持ち場に戻る。
「おう、ロックハート」
シドに呼ばれ、ティファが振り返る。
「はい」
胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえたシドが言った。
「バレンタインの指導を頼む。メイソンの後釜で仕事内容は部の統括的なことをしてもらうつもりだからな、お前が適任だろ」

先月までティファと共に仕事をしていたサージ・メイソンの後任と聞き、ティファは小さく胸を撫で下ろした。
メイソンの本社への異動と共に、今まで二人でこなしていた仕事が一気にティファ一人の肩にかかる状態となっており、過酷な業務を強いられていたのだ。
シドの再三の働きかけにより、ようやく本社が応じたということだろう。
とは言え、また一からの指導に彼がどの程度の期間でメイソンと同じ戦力になれるかは見当がつかない。もうしばらくは業務に指導も加わり、激務が続くことだろう。

「はい、分かりました」
シドが手を上げ、デスクに戻るために踵を返した。
「部長」
シドがライターを手に振り返った。
「今日から禁煙ですよ」
ティファがにっこりと笑う。壁に貼られた『オフィス内禁煙』のポスターを見たシドが顔を歪め舌打ちした。
「…ったく…下らねぇ規則ばっかり作りやがって…」
ご丁寧にデスクにも置かれた『NO SMOKING』の間が抜けた顔のマスコットを指で弾いたシドが悪態を吐いた。


「よろしくお願いします。ティファ・ロックハートです」
ティファがヴィンセントに向き直り会釈した。
「…こちらこそ…よろしくお願いします」
にこりともせずヴィンセントが応える。
「じゃ、まず部内の案内をします。……本社では何をされてたんですか?」
ティファが訊ねるとヴィンセントは「営業以外は何でも…」とぼそぼそと口を開いた。
目を瞬くティファの顔を見ながら「……営業は不向きで…」とどことなくばつが悪そうに呟くヴィンセントにティファが小さく噴き出した。
「ごめんなさい、でもそんな感じだわ」
くすくすと笑うティファに、ヴィンセントも小さく口元を弛めた。







「ね、バレンタインさん…だっけ?どう?すぐ使えそう?」
会社の近くのティファたちが行きつけのダイナーでランチを摂りながらユフィが訊ねた。
「うん、今まで本社で総務部にいたみたいだから大抵のことは分かってるみたい。だから飲み込みも早いし、直ぐにメイソンさんの後任に就くんじゃないかしら」
ティファが微笑んだ。
「でも、メイソン係長とはタイプが全然違うわね。何だか影がある男って感じで…ね、それにイケメンじゃない?」
エアリスがパスタをフォークに巻きつけながら笑った。
「…そーかなぁ…?影があるッつーか…ただの根暗って感じ?アタシはメイソンさんの方が好きだなぁ…。なんか、辛気臭いじゃん。アイツ…」
ユフィが不満を露わにし、ハンバーガーにがぶりとかじりつく様子を見てティファとエアリスが顔を見合わせ苦笑した。

前任のサージ・メイソンは明るい性格のムードメーカーで、部内の雰囲気はいつも和やかだった。悪気は無くとも大声で捲し立てるシドを宥めたり、いくつかの課を兼任しているため不在がちな課長との連携を上手く取るなど、職員からの信頼も厚い男だった。
この春に本社に異動となり、実質栄転の彼に皆一様に称賛を送りながらも、痛恨を滲ませた。
そのメイソンの後任として入って来たヴィンセント。彼は当然前任者と職員たちの関係を知らない。初っ端から高いハードルを置かれたヴィンセントを不運に思いながらも、やはりメイソンと同じ人柄を求めてしまいそうな自分に、ティファは小さく溜め息を落とした。ヴィンセントはメイソンではない。仕事振りならまだしも、人柄まで彼に求めるのは失礼極まりないことだ。

「まだ異動して来て半日しか経ってないのに、お互い何も分からないでしょ?きっと緊張もされてるだろうし…」
ティファが微苦笑を浮かべる。
「そうね。それに、だいたいユフィは目上の人に対して敬意が無さすぎ。言葉使いとか、態度とか。わたしたちにはいいけど、もし他所に異動になったら今のままじゃ駄目よ」
エアリスがユフィの鼻の頭に人差し指を突き付けた。
「えっ?アタシ、異動とかやだぁ!ティファとエアリスと別の部署なんて絶対無理だよ~!」
既に論点が大きくずれたユフィの返答に、再び顔を見合わせたティファとエアリスは困ったように笑い合った。



午後からも自分の仕事の傍らでヴィンセントに業務の説明をする。幸いにもパソコン操作にも長け、様々な書類の種類も把握できているヴィンセントには『仕事を教える』というよりも『この部署のやり方を説明する』という方が正しいと言える。初日とは思えないほど手際よく仕事をこなし、即戦力になりそうな彼の仕事ぶりにティファは安堵した。
これで、定時で帰ることの出来る日が増えそうだ。

ティファの帰りを待っているクラウドを思うと、業務終了と共に飛んで帰りたいのが本音だ。きっとひとりぼっちで留守番はつまらないに違いない。ティファの膝の上でごろごろと喉を鳴らす黒猫の暖かく柔らかな毛を思い出す。
不意に今朝ベッドの中でティファを抱き締めた『人間の』クラウドを思い出し、ティファの心臓が大きく跳ねる。
未だ信じられないことだが、黒猫のクラウドと金髪碧眼の美丈夫は同一人物(?)なのだ。最近はめっきり人の姿で過ごすことが多くなったクラウドは、困ったことに人間の姿でも猫の時と変わらない行動を取る。
ティファに擦り寄り、頬や耳を舐める。ソファに座っていれば当然のように膝枕で寝息を立てる。
その度に狼狽する自分に必死で言い聞かせる。クラウドは猫なのだと。そう、猫が飼い主に甘えているだけであって、クラウドにとってはどうということのない行動なのだ。

しかし、そう思う度にちくりと胸の奥が痛む。
ティファを呼ぶ優しく低い声。大きな掌。しなやかな筋肉に覆われた逞しい体躯は、決して大柄とは言えないが包み込まれると得も言われぬ安心感が胸を満たす。
だが、彼は人ならざるもの…猫でも無いかもしれないが人でもないのも事実だ。そして、ティファの元に現れた時と同じく、いつ忽然と姿を消すとも知れない。
ずっと傍にいる、クラウドはそう言ったが、不意に彼が居なくなった時のよるべなさを思うと息苦しく胸が締め付けられる。

「ロックハートさん、このデータの入力はどこにすれば…」
ヴィンセントの言葉にはっと我に返ったティファが慌てて彼に向き直った際に触れた手が、デスクの隅に無造作に積んであったファイルに当たりばさばさと床に落ちた。
「あっ…ごめんなさい!」
ティファがしゃがみ込み、それを拾い集める。椅子から立ち上がったヴィンセントもファイルから外れて広がった書類を掻き集めた。
「……すみません…」
謝るヴィンセントにティファが目を瞬く。
「俺に仕事を教えるぶん、あなたの負担が増える」
遺憾を滲ませる彼に驚いたティファが思わず声を上げた。
「違います!バレンタインさんのせいではなくて…!」
突然立ち上がり高声を上げるティファに、オフィス内の視線が集まる。ぱっと顔を赤らめたティファがばつが悪そうに髪を耳に掛けながらしゃがむとぼそぼそと呟いた。
「……あの、飼ってる猫のこと考えてて…。今頃どうしてるかとか…ごめんなさい。仕事の説明中に…」
紅潮するティファの顔をきょとんとしたように見たヴィンセントが小さく噴き出した。
「…いや、すみません。でも、分かります。俺も猫を飼ってて…仕事中も彼女の事をよく考える」
「えっ…?バレンタインさんも猫を?どんな子なんですか?」
「白の長毛種で…俺が言うのも何ですが、美人です」
「そうなんですか?うちは黒猫で短毛なんです。バレンタインさんのところと反対ね」
不思議なことに飼っている動物のこと、ことさら猫の話になると、さほど親しくない間柄でもぐっと距離が縮まったように感じるものだ。しかし、仕事中ということをはたと思い出したのか、ややきまりが悪そうに顔を見るヴィンセントに「また猫ちゃんの写真見せてくださいね」とティファは微笑んだ。







「ただいま、ごめんねクラウド。遅くなっちゃった」
帰宅したティファが玄関マットの上で座って待っていた黒猫の頭をひと撫でし、慌ただしくキッチンへ向かう。ジャケットを脱いでダイニングの椅子にかけると、冷蔵庫を開けて食材の物色を始めたティファの足に猫が身体を擦り寄せながら鳴き声を上げた。
「ちょっと待ってね…えっと…確か冷凍庫に豚肉があったから…」
白菜や人参などの野菜を取り出すティファは突如背後から抱き竦められ息を呑んだ。

「ちょ…クラウド…!離してくれないとご飯の支度が…」
にわかに赤くなったティファが振り返る。
「……おかえりってずっと言ってるのに無視するからだ」
しきりに鳴きながら足元にまとわりつくクラウドを思い出し、ティファは目を瞠った。
「ご…ごめん…。でも、ニャーじゃ分かんないわ」
クラウドはティファを抱き締めたまま溜め息を吐く。
「…ティファがこの姿で出迎えちゃ駄目だって言ったからだろ」
「そ…それは、クラウドが玄関に寝てたからじゃない…!別にその姿でもいいけど、どこででも寝っ転がるのを……!!」
ぺろりと頬を舐めたクラウドが「おかえり、ティファ」と耳元で囁いた。
真っ赤になり飛び上がったティファが頬を押さえ、振り向くと同時に声にならない悲鳴を上げる。
「だからっ!何か着てって…!!」
くすりと微笑ったクラウドが不意に姿を消し、すとんと着地した黒猫が青玉の眼を細めにゃあと鳴いた。



「…熱っ」
鉢に取り分けられた鍋の具材を食べようとしたクラウドが顔を顰めた。
「…大丈夫?ちょっと冷ました方がいいかな」
外は雪がちらつく寒さだ。身体が温まるよう夕食は鍋ものにしたが、文字通り猫舌のクラウドにはやや食べ辛いようだ。よかれと思ったメニューだが致し方ない。ティファは平たい皿に具材を取り分けると、早く冷めるように薄く広げた。

「ねぇ、クラウド。私が留守の間は何して過ごしてるの?」
クラウドはちらりとティファを見ると「別に」と答えた。素っ気ないその返事に、ティファは眼を瞬いた後、頬を膨らませる。
猫は呑気でいいわね、内心毒付くが悔しいことに彼の存在が何よりの支えになっている事が事実だ。

寡黙なクラウドがあれこれ喋ることはない。ただ一緒に食事をしながらティファが話し、クラウドが相槌を打つ。他の猫と話したことは無いが、彼らはこんなものなのだろうか。黙って食事を口に運ぶクラウドを見ながらティファは首を傾げた。

食事を終え、片付けを行う傍らでダイニングを見れば、椅子に片膝を立てて座ったクラウドがぼんやりとテレビを見ている。かと思えば思い立ったように傍に立ち、ティファを背後から抱き締めながら黒髪に頬を擦り寄せ甘えるクラウドに、相変わらず早鐘を打つ心臓を宥めながら小さく嗜める。

いつの間にか帰宅後のティファの日課となったこの一連の流れは、その日の疲れを癒す無くてはならない儀式のようなものとなっていた。

入浴を済ませ、寝巻きに着替えたティファがベッドに潜り込む。視線を感じ、見た先にはちゃっかり黒猫の姿に戻ったクラウドが蒼い瞳を細め小さな鳴き声を上げる。
人間の姿ではティファがベッドに入れてくれないのを心得ている、憎らしいほど愛らしくまたあざとい表情にティファは溜め息を吐くとシーツを少し持ち上げた。
とんとベッドの上に飛び上がると、クラウドがティファの懐に潜り込み、ごろごろと喉を鳴らす。その小さな頭を優しく撫でるとそっとキスを落としティファは瞳を閉じた。

明日の朝、金髪碧眼の男の姿に戻っているこの猫に抱かれて目覚め、相も変わらず狼狽することは火を見るより明らかで、しかしそれが分かっていながらも結局彼を招き入れる自分に小さく溜め息を零す。
やがてクラウドの規則的な喉の音にとろとろと睡魔が夢の世界へと誘う。程なく眠りに落ちたティファの腕の中で、ゆっくりと蒼い双眸を開いたクラウドが人の姿へと戻ると、小さく身動ぐティファをその胸に抱き寄せる。彼女を起こさぬよう優しく目蓋に唇を落とし、小さく笑みを零すとクラウドも瞳を閉じた。







ヴィンセントが移動してきて一週間が過ぎる頃には、彼は主だった仕事はティファの補助なしにこなせるようになり、シドも満足そうに鼻を鳴らした。
「さすがだな。やっぱり直接本社の人事に掛け合ってみるもんだ。ちょっと一服してくらぁ」
鼻唄混じりでオフィスを出ていくシドの後ろ姿を見たユフィが「人事を脅したのかな」と目を瞬いた。
「…まさか…う~ん…でも部長ならあり得るかも…」
エアリスが眉根を寄せるのを見てティファが苦笑した。
「さすがにそれはないんじゃない?でも、バレンタインさんが来てくれて本当に助かるわ。仕事の量が全然違うもの」
ティファがにっこりと微笑む。

ここのところ、定時とは言わないまでも早く帰れる日が増えてきて、クラウドと過ごす時間も長く取れるようになってきた。何が出来るわけでもないクラウドだが、自分の帰宅を心待ちにし、優しく出迎えてくれるものがいる。そう思うだけで疲れが和らぐようだった。

──晩ごはん、何にしようかしら…

書類をアルファベット順に整理した資料室の棚から目当てのものを探し、ぼんやりと考えながら文字を目で追う。
昨日は舌平目のムニエルにしたから、今日はお肉にしようかな…鶏肉なら冷凍してあったわね…
内心ごちながら「あった」とティファは棚の上段にあるファイルに手を伸ばした。
届きそうで届かないそれを取るために、わざわざ部屋の隅にある踏み台を取りに行くのが面倒で、ティファはヒールの踵以上に背伸びして目一杯手を伸ばした。指先がファイルに触れるものの、引き出すまでには至らない。限界まで伸ばし、つりそうな腕の力を弛めたティファがすとんと踵を床に落とし溜め息を吐いた。

ふっと背後に立った人物がそのファイルに手を伸ばし、悠々と書棚からそれを引き出すとティファに手渡す。
「これですか?」
ヴィンセントが小さく笑う。
「あ…バレンタインさん…!ありがとうございます」
横着をしたいがための無駄な努力の一部始終をヴィンセントに見られていたのかと気恥ずかしさを誤魔化すようにティファがはにかんだ。
もしもヴィンセントが現れなければ、届く筈もないファイルの為に結局は踏み台を取りに行かねばならない結果になっていた筈だ。
「…取り柄と言えばこの無駄な背丈だけですから」
肩を竦めて苦笑するヴィンセントの気遣いはいつも至極さりげなく、寡黙ながらも穏やかな人柄にその端正な容姿も加わり、別の部署にまで彼は名を馳せていた。

頭の回転も早く物事の優先順位を付けるや否や無駄無く効率のよい動きをする彼だが、切れ者、という雰囲気は纏っていない。ヴィンセントの周囲にぴりぴりとした空気は無く、むしろ穏やかで安穏な彼の周りは酷く居心地よく感じた。

ヴィンセントの纏う空気はどことなくクラウドのそれと似ているのかもしれない。
颯爽と資料室を後にするヴィンセントの後姿を見送りながらティファは小さく笑った。







ティファの準備していった昼食を摂ると、クラウドはキッチンに皿を運び、流しに置いて水道の水を注いだ。こうしてないとこびりついた汚れが落ちにくい、ティファがそう零していたのを思い出しクラウドは小さく頷いた。

大きく伸びをして浴室に向かう。脱衣所の鏡に映った自分の顔を見ながら、癖の強い蜂蜜色の髪を撫でつけた。しかし、直ぐ様好き勝手な方向に立ち上がるその髪に僅かに顔を歪めると、思い直したように浴室の扉を開けた。
真っ白な壁は手入れが行き届いていて染みひとつない。僅かに開いた窓を開けると、幅広の格子の向こうからアパートの裏通りが見えた。顔を近付け、周囲を窺う。この裏通りを歩いているのは管理人のジョニーくらいのものだったが、見つかると厄介だ。
誰も居ないことを確認するとクラウドは、猫の姿になり窓に飛び上がった。人は通り抜けることのできない細い格子だが、猫ならば易々と抜けられる。窓から顔を出し、再度周囲を窺うとクラウドは窓から飛び降り何食わぬ顔で道を歩き始めた。

ティファが仕事に行っている間は、アパートを抜け出し巡回するのがクラウドの日課だった。ティファの話を聞く限りは、職場で増員があり以前のように深夜まで残業をしなくても済むようになったらしいが、それでも不安要因は尽きない。空き巣がピッキングの末侵入してきた挙げ句、ティファの下着を盗もうとした事件も記憶に新しい。勿論クラウドの活躍でそれは未遂に終わったが、未だ見つからないお気に入りの下着のことを時折ティファがボヤくたびに、どことなく後ろめたい感情と彼女を不安に陥れた償いの気持ちがあることは否めない。

住宅街を抜け、ティファが通勤に使っている駅までの道を辿る。平日の昼間の駅は閑散としていて、退屈そうな駅員が巡回していた。

駅の近くの公園では、遊具で遊ぶ子供たちの甲高い歓声が聞こえ、傍らのベンチで母親たちが井戸端会議をする、いつもの光景が見られた。子供たちに見つかると面倒だ。植え込みの中を抜け、ブナやクヌギが生い茂る森に出る。
どんぐりが落ちる頃にはここも子供たちが現れ、クラウドの姿を見かけるや否や奇声を発しながら追い回されるものだが、幸いにもその時期を越えた木々は落葉し、枝だけの寂しげな風貌で佇んでいた。

クラウドは大きく伸びをして静かな森の細い道の脇に設置されたベンチの上に飛び上がった。午後のうららかな陽射しが降り注ぐそこはほんのりと温かく、冷たい地面に晒されていた肉球に心地よかった。

ここでティファが帰るまで時間を潰し、電車から降りた彼女の後に続き護衛を兼ねて一緒に帰宅する。勿論、ティファには見つからないようにアパートの前まで彼女が戻れば素早く風呂場から一足先に部屋に戻り、さも一日留守番をしていたように振舞うのだ。こういった時間は猫の姿の方が都合がいい。こんな昼間から大の男が毎日何時間もここに入り浸っていれば、そのうちには警察の職質を受けてしまう事だろう。

柔らかな陽射しがクラウドの漆黒の被毛に降り注ぎ、艶々と光沢を放つ。睡魔がクラウドを包みこみ、意識を手放そうとした瞬間、総毛立つ気配にクラウドは飛び起きた。気配もなく間近にまで迫ったそれが唸りを上げ牙を剥いた。全身の毛を逆立てたクラウドが目を吊り上げ真っ赤に裂けた口を大きく開け威嚇する。しかし、躊躇なく襲い掛かってくる大型犬の蒼い瞳を見据えたクラウドが大きく跳び退った。
啀む犬の瞳が蒼い光を放ち、残像と共に揺れる。瞠目したクラウドの瞳も共鳴するように爛々と輝いた。

静寂を湛えた森に金属音が響き渡る。
振り下ろされた大剣を、腰を落としたクラウドが同じく身の丈ほどもある大剣で受け止めた。彼の纏った漆黒の衣が風を受け舞い上がり、やや遅れてふたりの周囲の枯れ葉が舞った。重い衝撃に歯を食い縛ったクラウドの双眸が瞠られる。

にやりと笑った男がクラウドを威圧した大剣を持ち上げ、頭上でくるりと回す。後方に大きく跳び、間合いを取ったクラウドが再び剣を構え男を睨みつけた。

「ははっ、悪い!ビビらせちまったな。お前、そうじゃないかって思ってたんだ」
黒髪をつんつんと立ち上がらせた男は、屈託のない笑顔を見せながらクラウドに近付いてきた。鋭い眼光で男を見据えるクラウドが大剣の切っ先を彼に突きつける。
「だから、ごめんて。こうでもしないとヒトの姿になんないだろ?ほら、お前とやり合う気はないからさ」
男が大袈裟に両手を広げると大剣が掻き消える。人懐こく笑う蒼い瞳を凝視していたクラウドは、やがて溜め息をひとつ零すとそれまで構えていた剣を消した。
「……誰だ」
男を見据え、低い声でクラウドが訊く。
「ザックス。今は見ての通りの男前でかっこいいイケメンだけど、可愛いワンちゃんにもなれるぜ」
大きな口から剥き出された犬歯しか覚えはないが、とても『可愛いワンちゃん』と言えるサイズでは無かった気がしてクラウドはちらりとザックスと名乗った男を見た。
「お前は?」
「……クラウド」
まるで知人とでも話すような気さくな口調でザックスが「よう、クラウド」と笑った。
「時々お前のこと、見かけてたんだ。『ご主人様』と散歩中に」
ザックスの口調から、彼も人に飼われていることが窺える。よく見れば彼の首元に黒い首輪が巻かれ、ネームプレートと思しき飾りが陽光を受け時折きらきらと輝いている。
先程襲いかかって来ておきながら、やけに友好的なザックスの態度にペースを崩される。クラウドは稀有なその同朋に心を許すように小さく笑った。


「…なぁ、あんたのご主人は、知ってるのか?その、あんたがヒトになれるって…」
ふとクラウドが訊ねた言葉に目を瞬いたザックスが驚いたように大きく仰け反る。
「え?お前のご主人、知らないの?」
「…質問を質問で返すな」
鋭いクラウドの視線にザックスがふっと笑い、腕組みをした。
「勿論。ご主人の前ではいつもこの姿だ。…散歩以外はな。で、クラウドは?」
「………知ってる。……でも猫の時には優しいのに、俺がヒトの姿になるとティファは…態度が変わるんだ」
眉を寄せたザックスが訊ねる。
「態度が変わるって…苛められるのか?」
「……!ティファはそんなことしない!その、俺が触ったり、舐めたりするのが駄目だって…真っ赤になって嫌がる」
ぽかんとクラウドを見ていたザックスが盛大に噴き出した。
「…何だよ」
じろりと睨むクラウドに「ごめんごめん」と笑いながらザックスが続ける。
「大丈夫。それは悪い傾向じゃないさ。まだお前のヒトの姿に慣れてないだけだよ。しばらくご主人が慣れるまで待つしかないな。しかし、お前のご主人可愛いな」

とは言えティファと暮らし始めて既に2か月ほど経過するが、未だヒトの姿になると服を着ろだの舐めるなだの叱られることが多い。猫のクラウドを抱き上げる時には優しく微笑む彼女も、クラウドがヒトの姿を取り、彼女を抱き締めると途端身体を固く強張らせ、困窮している様子がありありと伝わってくるのだ。

「そのうちって…いつだよ…」
呟くクラウドにザックスが肩を竦める。
「人間にも色んなタイプが居るからな。俺のご主人はあんまり小さい事気にしないから、この姿を受け入れられるのも早かったけど」

ザックスの言葉に小さく溜め息を落とす。ティファはこの姿の自分を受け入れることが出来ず、戸惑っているのだろうか。だが、普段の生活で彼女が常に狼狽しているかと言えばそうではない。
ティファに擦り寄り、抱き締め、唇を這わせると途端真っ赤になって突っぱねられる。猫の自分を抱き締め、キスを落とすティファにヒトの姿で同じことを返すと拒絶されるのはなぜなのだろう。
ただ彼女が愛しくて、ヒトの姿で彼女に触れ、抱き締め傍に居たい。それだけなのに。

「……ザックスのご主人はヒトの姿でどこまで許してくれる…?」
きょとんとしたザックスが首を傾げる。
「どこまでって?」
俯き加減にクラウドが呟くように言った。
「その、触ったり、抱き締めたり…とか…」

ちょっとした指南を仰ぐだけのつもりだった。例えば人間同士はスキンシップを嫌うとか、普通は距離を置いて接するものだとか、そういった人間の習性が分かればと思ったのだ。
「…逆にヒトにならなきゃ出来ないだろ?そういうの」
「……何が?」
さらりとザックスの口を吐いて出た衝撃的な一言に元々逆立った彼の蜂蜜色の髪が更に鋭さを増し、瞠られた碧眼が大きく揺れた。







「ただいま」
玄関の扉を開けると、とばくちに立ったクラウドにティファが小さく悲鳴を上げた。
「び…っくりした…もう、クラウド!」
ふわりとクラウドがティファを抱き締める。目を瞬いたティファがおずおずと彼の背に手を回した。
「…おかえり」
くぐもったクラウドの声が聞こえ「ただいま」とティファは小さく笑った。


食事を済ませ、いつものようにティファがキッチンで洗い物をする。かちゃかちゃと食器のぶつかる音を聴きながらクラウドはティファの後姿を見つめた。ゆっくりと彼女の背後に立ち、後ろから抱き締める。ぴくりと驚いたように反応したティファが「どうしたの?」と微笑った。
黒髪に唇を這わせ、ふとクラウドが眉を寄せる。彼女から微かに別の匂いがする。人間の男の匂いだ。
誰かがこうして彼女を後ろから抱き締めたのか。途端胃が捻じれるような不快な感情が込み上げる。
「クラウド?」
微動だにせず、息苦しいほど強く抱き竦めるクラウドにティファが訝しげに声を掛けた。同時に首元に熱い息が掛かり、ぬるりと舌が這う。いつもクラウドがじゃれ付いて行う悪戯とは明らかに違うそれにかっと全身が熱くなる。
「クラウド!やめて…!」
首筋にちくりと小さな痛みが走ると同時にブラウスの中に滑り込んだクラウドの手が肌をまさぐり胸を掴んだ。泡立ったスポンジを流しの中に落とすとティファが叫ぶ。
「やめなさい!!クラウド!!」
はっと我に返ったクラウドがティファから離れよろめいた。

鳶色の瞳にいっぱい涙を浮かべ、流しに背を向けて立つティファの怯えた表情を見てクラウドの喉から微かな声が漏れる。
「ティ…」
首筋を押さえ、ブラウスの前を掴んだティファがびくりと身を強張らせた。
「……来ないで…!あっち行って!!」
青ざめたクラウドがのろのろと後退る。
「ティファ…ごめ…」
「出てってよ!!」

キッチンからクラウドが姿を消すと、ティファはその場にしゃがみ込んだ。
狂ったように早鐘を打つ心臓が頭に響いた。
「……っ………!」
堪えきれず溢れた涙が頬を伝い、キッチンの床にぽたりぽたりと落ちた。


その後、クラウドはどこに潜り込んだのかティファの前に姿を見せなかった。
痛むこめかみを押さえ、のろのろと寝室に戻る。いつもはクラウドのために少し開けている寝室の扉をきっちりと閉め、鍵に手を掛け僅かに躊躇した。

首筋にかかる熱い息。男の目をしたクラウド。分かっている。彼は人ではないが、猫でもない。
頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回されたようで整理のつかない思考がますます頭痛を増長させ、ティファは小さく呻くとかちゃりと施錠した。
そのままベッドに潜り込むと、大きく息を吐き出し目を閉じた。

不意に小さな鳴き声が聴こえた。
扉の向こうでクラウドが扉を開けて欲しいと言っているのだろう。部屋の前で寂しげに座る黒猫が脳裏に浮かんだ。

──クラウド…!

微かな鳴き声がもう一度聴こえて、ティファはシーツに潜り込み耳を塞ぐ。
目を固く瞑り、息を殺し、全ての感覚を遮断するように縮こまった。
どくどくと鼓動に合わせ痛む頭に、苦しそうなクラウドの顔が浮かぶ。いつしか意識を失うように眠りに落ちていた。







目覚まし時計の音で目蓋を開け、緩慢な動作でボタンを押してけたたましく鳴り響くそれの動きを止める。
起き上がり、眺めたシングルベッドがやけに広く感じた。そうだ、クラウドが居ないからだ…ぼんやりとした頭でティファは寝室の扉を開けた。

「……クラウド?」
しんと静まり返った廊下に向かって声を掛ける。ひんやりと冷え込んだそこは物音ひとつせず閑散としていた。カーディガンを羽織り、キッチンに向かう。
「クラウド…どこ?」
返事はなく、痛いほどの静寂が広がると同時にざわざわとティファの胸に不安が広がる。
キッチンから玄関を覗くが、玄関マットの上にもクラウドの姿はない。
いつしか早足で部屋中を探し回り、クローゼットやトイレの扉を開け放つ。
クラウドがどこにも居ない。青ざめたティファの喉がひくりと痙攣した。

不意に思い立って踵を返すと狭い脱衣所に飛び込み、浴室の扉を開ける。勢い余ってたたらを踏み、吹き込む冷たい外気を孕んだ風を肺一杯に吸い込んだティファが思わず噎せた。

大きく開け放たれた浴室の窓の狭い格子越しに裏通りが見えた。壁にちらちらと映えた曙光がじわりと滲み、ティファは両手で顔を覆うとしゃがみ込み嗚咽を漏らした。







「ね、ティファ今日元気無くない?」
ユフィがエアリスに耳打ちした。傍目にはばりばりと仕事をこなしているように見えるが、どこか上の空で、時折涙ぐんでいるようにも見える。
「…どうしたのかしらね…」
エアリスも憂慮を浮かべる。
「お昼、何か美味しいもん食べ行く?」
同じく心配そうにティファを見るユフィがエアリスの顔を見た。


ティファは、大きく溜め息を吐き、窓から外を見た。ごちゃごちゃと雑居ビルが立ち並ぶオフィス街は、心配事が無くとも見ていて心癒される風景ではない。

クラウドはお腹を空かせてないか、この寒空の下昨晩はどこで眠ったのか。万一交通事故にでも遭っていたら…ぞくりと背筋を冷たいものが走る。
何とか準備を済ませ出社したが、今日は会社を休んでクラウドを探しに行けばよかったかもしれない…そんな事を考えながら、当然仕事に集中できぬままティファは唇を噛んだ。

首筋にかかる熱い息、熱情を孕んだ包容。寝食を共にする男女なら、いずれは自然と肌を重ねるようになるのだろう。ティファはクラウドがつけた首筋の印を掌でそっと押さえた。
未遂とはいえ、クラウドからそうされることに嫌悪感など微塵も感じなかった。

クラウドに肌を許す要因を日々作りながら、いざその場面を迎えると彼を激しく拒絶した。
何故なら、ティファは人間でクラウドはそうではないから。


──違う…

ティファを呼ぶ優しく低い声。大きな掌。しなやかな筋肉に覆われた逞しい体躯は、決して大柄とは言えないが包み込まれると得も言われぬ安心感をもたらしてくれる…。
ティファが幾重にも作り上げた障壁。だが、彼には初めからそんなものは無かったのだ。
ティファを信頼し、全てを受け入れているクラウドとの間にありもしない隔たりを作り上げ必死で距離を取り逃げ回っていた。

ただ認めるのが怖かったのだ。
今になってはっきりと自覚したその感情を。

ティファは椅子から立ち上がり、ふらりとよろけた。
「ティファ…?大丈夫?」
ユフィがおろおろと青白いティファの顔を覗き込んだ。
「…うん、ごめんね…。ちょっとお手洗い行ってくる」
力無く笑ったティファがユフィに言った。
「あ。アタシ、痛み止め持ってるよ!あと下痢止めと、食あたりと……あっ!医務室行く?」
椅子から飛び上がるユフィに首を横に振るとティファは笑みを浮かべた。
「…ううん、大丈夫。ありがとう、ユフィ。すぐに戻るから…ちょっとお願いね」
不安げにティファの顔を見るユフィが釈然としないままに「うん…」と椅子に腰を降ろした。


ティファは足早に廊下を歩いた。誰かと話せば堪えている涙が零れそうで俯き加減で歩を進める。
いつも人気の少ない資料室に飛び込むと、一番奥の棚の前まで行きしゃがみ込む。

──クラウドが好き…!

何て馬鹿なんだろう。彼が出ていってしまってから気付くなんて…。
目を背けていた現実を受容した瞬間から、溢れる程の想いが身を焦がす。

ティファは胸の前で強く拳を握り締めた。爪が掌に食い込んでも痛みすら感じなかった。ただ、胸が痛い。
「…ぅ……っ……」
声を殺し肩を震わせる。

「…ロックハートさん…?」
はっとして顔を上げる。驚いたようなヴィンセントがティファの前に佇んでいた。







「…そうですか…」
「………ごめんなさい。仕事中に」
自動販売機の置かれた休憩所で、まだ赤い目のティファが呟き両手の中の温かい缶コーヒーをきゅっと握った。
「いや、俺も猫が居なくなれば平常心では居られない」
「………………」
寡黙な彼が困窮しているのはひしひしと伝わってくる。気を遣わせている事を申し訳ないと思いつつも、居合わせたのが愛猫家の彼でよかったと安堵を覚える。

「水臭いわね~!そういうこと、どうして話してくれないかなぁ」
突然響いた声に飛び上がったティファが振り向いた。
「……エアリス…」
ポニーテールの長い髪を揺らしながらこつこつとヒールを鳴らし近付いたエアリスが苦笑する。
「様子、変だって、にぶちんのユフィまで気付いてたわよ」
「……ごめんね…だって…余計な…」
「心配かけたくない、からでしょ?」
大きく目を瞠ったあと、顔を歪め俯くティファの肩をぽんと叩くとエアリスが言った。
「ティファ、早退しなさい。今日はとっても体調悪そう。顔色も酷いし、風邪気味で頭も痛いって言ってたわよね」
「……えっ…?」
ティファが目を瞬く。
「今日のティファの仕事はバレンタインさんがカバーしてくれるから大丈夫。ね?係長?」
エアリスに突然話を振られ、狼狽えながらもヴィンセントがこくりと頷いた。
「……そうだな…それがいい。部長には俺から伝えておくから、早退してください。ロックハートさん」
「でも…」
ベンチから立ち上がりおろおろするティファの背を押しエアリスが言った。
「係長がそう仰ってるんだし、これは上司命令で~す!健康管理も仕事のうち。さっさとお帰りください。ロックハート主任!」
ヴィンセントとエアリスの顔を交互に見たティファはぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます…!バレンタインさん。エアリスも…!」
駆け出すティファの後ろ姿を見送りながらエアリスがにっこりと微笑んだ。
「かっこいい~!係長!じゃ、ティファの山盛りのお仕事、手分けして頑張りましょ」
くすりと小さく笑ったヴィンセントが「了解」と手を上げた。







会社から急いで帰宅したティファは、スーツを脱ぎセーターとジーンズに着替えると上着を羽織りアパートを飛び出した。
クラウドが行きそうな所はどこだろう。民家のガレージや生け垣、空き地の廃材の陰など猫が入り込みそうな所を探し回る。

「クラウド…どこ?」
彼の行きそうな所…皆目見当がつかず、無駄に時間だけが過ぎていく。
改めて自分はクラウドのことをなにも知らない、そう思い悲観に暮れたティファは日が西に傾きかけた空を見上げた。

刹那、目の前に現れた大きな犬に驚いたティファが息を呑んだ。濃いシルバーの毛並みにクラウドとよく似た青玉の瞳。その表情こそ物々しいものだったが、ふさふさとした尾を振りながら鼻を鳴らす様子を見ると、ティファに危害を加えるつもりはないようだ。
「…どこから来たの…?」
首に巻いた黒い首輪には『ZACK』と書かれたネームプレートが付いている。
「…ザックス…あなたのご主人は?」
鼻を鳴らしたザックスがティファのコートの裾をくわえ、ぐいぐいと引っ張った。
「ちょ…!あなたと遊んでる場合じゃないの…!私………クラウド?!」

道路の向こう側で佇む黒猫がティファをじっと見つめていたが、やがてふいと視線を逸らし薄闇に融けるように姿を消す。
「待って!!クラウド!」
ワン!と大きくザックスが吠えたが、それを振り切りティファは黒猫を追い駆け出した。
突如けたたましいクラクションが鳴り響き、ティファは瞠目した。運転手が驚愕の表情を浮かべ、ハンドルを切る。
「…ちっ…!」
人型を取ったザックスが身体を低くし、ティファの後を追おうとした瞬間、その脇を弾丸のように黒い影が駆け抜けた。
疾風のごとく飛び込んだ黒猫が縁石の上から踏み切った瞬間、漆黒の衣に身を包んだ金髪碧眼の男へと姿を変える。双眸を見開くティファを抱き抱え、クラウドはその場から大きく跳躍した。

急ブレーキをかけた運転手は、窓から顔を出し、ティファたちの無事を確認すると「死ぬ気か!馬鹿!!」と悪態を吐き、逃げるようにその場を走り去った。
安堵の表情を浮かべたザックスが立ち上がり大きく息を吐いた。
「はぁ…クラウド、ギリギリセーフ…!ん…?ってか、俺、役立たず…?」
ぼりぼりと頭を掻くと道路の反対側を見て「まぁ、いっか」と肩を竦める。
『飼い主ではなく恋人』のエアリスからティファに協力するよう電話で頼まれ、クラウドが夜を明かした公園に誘導するつもりで家を出てきたのだ。
「う~ん…エアリス、誉めてくれっかなぁ~」
くるりと踵を返すと鼻歌を歌いながらザックスはその場を後にした。


「ごめんね…クラウド…!ごめんなさい…!」
クラウドに縋りティファが嗚咽を漏らす。小さく首を横に振ったクラウドが「俺が悪いんだ」と呟き、艶やかな黒髪に顔を埋めた。
「……あ…あの子…」
ティファがクラウドと勘違いしたと思しき黒に鼻先と足先が白い、丸々と太った猫がクラウドを見て毛を逆立てる。
クラウドと似ても似つかないその猫を見てティファは噴き出した。しかし、そこまでに切迫していたのだろう。

「………帰ろう、クラウド」
ティファが顔を上げ微笑んだ。
「……………いいのか?だって、俺、また…」
「…いいの」
目を瞬くクラウドにティファが繰り返し言う。
「いいの」
青玉の瞳を細めたクラウドはティファの頬に自分の頬を擦り寄せた。







「あ。クラウド見つかったみたい!よかったぁ…。ほら係長、これ」
エアリスがメールに添付された画像を見せる。凛とした表情の黒猫がカメラ目線で映ったそれに、ヴィンセントも小さく微笑んだ。
「…よかった。家族が居なくなると一大事だ」
ティファを返したあと、シドにその旨報告し何食わぬ顔でふたりとも業務に戻った。
狼狽するユフィに事情を説明し、帰りに会社の近くに最近できたスイーツ店のパンケーキを(何故か)ヴィンセントが奢る事で合意し、ティファのその日の事務仕事の三分の一を請け負うことを快諾した。

メールを閉じ、スマートフォンの待ち受けをヴィンセントに向けたエアリスがにっこりと笑った。
「これ、わたしの飼ってる犬。ザックスっていうの。可愛いでしょ?」
彼女が犬を飼っていることは聞いていたが、小さな愛玩犬、例えば丸くカットしたトイプードルや愛らしいリボンを結んだヨークシャーテリアなどを想像していたヴィンセントがぎょっとする。
待ち受けからも今にも噛みついてきそうな大きな口から犬歯を覗かせるシベリアンハスキーはふんわりと穏やかな雰囲気の彼女とは随分掛け離れて見えた。
「………聡明そうな犬だ」
ヴィンセントが曖昧な笑みを浮かべる。
「ううん。ばかなの。あ、係長も猫飼ってるんでしょ?どんな子?」
瞬時に思案を巡らせ捻り出した褒め言葉をばっさりと斬った後で、エアリスが興味津々とばかりに目を輝かせる。
「…………ああ」
胸ポケットからスマートフォンを取り出すと猫の画像を呼び出しエアリスに見せる。
「可愛い~!って言うか、とっても綺麗な猫ね。ね、名前は?」
「……ルクレツィア」
何故か紅潮したヴィンセントを見たエアリスが首を傾げた。
「何で係長が照れるの?」
「……いや……」
スマホを再びポケットに仕舞うと「仕事しましょう」とヴィンセントが咳払いをした。
「はぁい」
エアリスがくすくすと笑い、パソコンのモニター画面に向き直る。

──よかったね、ティファ。もうクラウドと喧嘩しちゃだめよ──

素早くメールの返信をするとエアリスはスマートフォンをデスクに置いて、待ち受けのザックスに微笑み掛けた。







入浴を済ませ、ベッドに入ろうとすると黒猫がするりと寝室に入ってきて小さく鳴いた。どこか遠慮がちなその様子にティファが肩を小さく笑う。

「おいで、クラウド」
ぴょんとベッドに飛び乗り、布団に潜り込むクラウドをそっと抱き締め、灯りを落とす。仄暗い部屋の中でクラウドの喉の音が響いた。
「……クラウド」
猫が腕の中で反応する。
「……よ…夜も、人間のままでもいいよ」
クラウドの喉の音がぴたりと止まり、代わりにティファの心音が頭の中にどくどくと響く。
「…嫌じゃないの。クラウドに、だ…抱かれて寝るの…きゃ…!」
瞬時にヒトと化したクラウドがティファを組み敷く形で蒼い瞳を瞠る。
「いいのか?」
「ちょ……だから、何か着てって…」
嬉々としてティファを腕に抱くクラウドの体温に包まれ、涙が溢れる程の幸福感が胸に広がった。逞しい胸に頬を擦り寄せティファが呟くように言った。
「ね、クラウド」
「ん?」
もう離さないとばかりにがっちりと彼女を抱き竦めたクラウドが返事をする。
「大好き」
目を瞬いたクラウドはティファの頬に顔を擦り寄せ「俺もティファが好きだ」と頬をぺろりと舐めた。
「あっ…もう、すぐ舐める」
不思議そうな表情を浮かべるクラウドの唇にそっとキスを落とすとティファはシーツに潜り込んだ。
しばし固まったクラウドが掠れた声で呟く。

「……ティファ、今の…もう一回」
ぼっと音がする勢いで真っ赤になったティファが「だめ!一回だけ!」とシーツを頭から被る。
「ティファ…!頼む…!もう一回だけ…」
「もう、寝なさい!!ちょ…どこ触ってんの…?こらっ!」

クラウドの首に巻かれた新品の首輪の鈴の澄んだ音色が寝室に優しく響く。
ガラステーブルの上に並んだお揃いの黒猫のマグカップが、カーテン越しの月明かりに照らされぼんやりと薄闇に浮かんでいた。


fin.


2016/01/29 【Eternity】 那由多様




那由多様、ありがとうございました(* ´ ▽ ` *)
流石小説サイト様!!
文章、表現共に素敵すぎて、頂いてしまっても良いのだろうか??と恐縮の極みであります((((;゚Д゚)))))))
無自覚にフェロモンを撒き散らしつつ、天然クールな猫クラウド(♂)。
そしてそんなクラウドに翻弄されつつメロメロにされていくウブなOLティファに激萌えであります(ノω`*)ノ
是非ともザクエアとのWデートや両想いになったクラティの新婚生活を見てみたいです~ウフフフフ(*´∀`人 ♪
これからも猫クラティ応援させて頂きます~☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆


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