2019-01-28(Mon)
SWEET DISTANCE 13 - Cloud Birthday 2016 -
こんにちは、ももこです。
クラ誕SS第13話、前半だけですがUPします。
久し振りの更新なので本当は一話丸ごと上げたかったのですが、色々とやる事が多くて取り合えず前半だけでご勘弁下さい(ノ_<)
後半は近日UP予定です。
クラ誕……これ始めたの2016年ですから、三年越しのお話ですね……最終更新も一年半前。
それでも未だ書きたい部分は書けていないという体たらくΣ(ω |||)
現時点でこのお話の更新を待って下さる方が何人いるか分かりませんが、一度書き出したものは何とかゴールさせたい気持ちは変わらずにあります( ̄^ ̄)ゞ
今回もティファ視点ですが、クラウドはほぼ絡みません。
二人のもだもだは後ほど……奥手の二人を意識させる為には皆に協力してもらうのが手っ取り早いのではないかな??
それではまた来ますね!
拍手&閲覧ありがとうございました(*^_^*)
【Warning!】クラ誕SS第13話です。ティファ視点。前半のみ。クラウドとの絡みは殆どありません。が後半に少し出てくるかも??作中にあるエアリスの台詞ですが、原作中にコスタでエアリスをパーティから外していると聞ける台詞です。後半のティファの過去は私の勝手なイメージです。続きます。2/12後半UP。
SWEET DISTANCE 13
轟々と鳴るエンジン音と共に、強い風が束ねた髪を攫っていく。
流れに乱されたそれを耳の裏に掛けて───それから、どれくらい経っただろう。
「…………」
私の瞳は、もう、クラウドの姿を映していなかった。
だって、どれだけ見つめていたって、彼が"その"答えを教えてくれる事はないだろうから。
眼の前に悠然と広がる水平線をぼんやりと見つめる。
(……エアリスなら、すんなり聞けちゃうんだろうな)
『ね、クラウド?わたしのこと、どう思ってる?』
あれはセフィロスを追って初めてコスタに着いたその夜。
久し振りに再会したジョニーのアパートから帰宅して、ホテルの部屋に入ろうとして……ドア越しに彼女の声が聴こえて、つい足が止まってしまって。
エアリスとは相部屋だったけれど、その口ぶりからクラウドが一緒にいるのだと分かって……。
(あの時、クラウドはなんて答えたんだろう)
居たたまれなくなってすぐに外へ出てしまったから、クラウドがなんて答えたのかは分からないけれど。
ううん………知りたくないと思ったのが、本音。
(だって……あの素敵なエアリスだもん。私が男だったら、きっと好きになっちゃうよ)
クラウドだって………もしかしたら………。
(やっぱり私、臆病だな)
なんだか可笑しくなった。
あれからずっとその場面を心の奥にしまったまま、それでもこうして言葉に出来たのに………やっと言えたのがこんな状況なんて、全くもって意味が無い。
結局、以前と変わらない。
クラウドの気持ちが分からないまま、そこで安心している自分がいる。
「………」
もう一度、クラウドへ目線を移し、一呼吸する。
眼の前にある背中は変わらず沈黙したままだ。
「……、…ん」
立ち上がり、スカートの埃を掃う。
「……行くね」
今度は彼に背を向けて、屋内へ続く扉へと進んでいく。
強い追い風に押されて大きくなる歩幅を、それでも出来るだけ小さくなるように意識する。
引き止めてくれたら良いのに。
なんて、心の片隅で思いながら。
コックピットに戻ると、シドが数名のクルーと談笑していた。
艇内に戻ってから一度は部屋で休もうと思ったけれど、汚れたハンカチを洗うだけで出て来てしまった。
一人でいると、また余計な事を考えてしまいそうで……。
「よう姉ちゃん、調子はどうよ?」
「ええ、お陰さまで。ゆっくり休めたわ」
「そりゃ良かった。おおっと、そろそろ奴さんが近くなってきたか?お前ら、持ち場に戻れ」
「はい!」
シドの号令でクルー達が各自の持ち場へと散っていく。
それを見送りながら壁掛けのデジタル時計を確認すると、到着予定時刻まであと30分はあるようだ。
仲間達はまだ各々で休んでいるのだろうか、ここに集まっているのは私とシド、そしてクルーの人達だけのようだ。
入り口にはケット・シーのぬいぐるみが置いてあるけれど、様子から見て中の人はまだ戻って来ていない。
どうしようかと考えて、取り敢えず作業の邪魔にならないよう、普段ナナキやヴィンセントが待機している窓際に腰を降ろした。
「そういえばよ、あいつはどうだったんだ?」
流れていく景色を窓から眺めていると、操縦席からシドが顔を覗かせた。
親指をくい、と立てて小さく揺らしている。
「クラウド?彼ならデッキで眠っていたわ」
「はあ?あのクソ寒い所でかよ」
大袈裟に顔を顰めるシドに肩を竦めて苦笑する。
「部屋で休んでいたみたいだったけど、窓が開けられないから空気も篭るでしょうし……仕方ないわ」
「そりゃかっ飛ばしてる最中だからな。だからってよ、今度は風邪ひくんじゃねえのか?」
「確かにね。だからブランケットを持っていったの」
「へっ、気が利くねぇ。内助の功ってか」
「やだ、そんなんじゃないよ」
口に咥えた煙草の煙を細かに揺らしながらシドが笑う。
それに頬を膨らましながら、もう一度時計を確認した。
「ねえシド。あとどれくらいで着きそう?」
「ざっと20分てところだな。どうした?」
「近くなったらクラウドを呼びに行こうかと思って。クラウド、寝入ってるみたいだったし……」
「大丈夫じゃねえのか?仮にも元軍人だぜ」
「そうかもしれないけど念の為に……」
その時、微かな寒気が肌を走った。
「…っくしゅん!」
「おいおい、まさかお前さんが風邪か?」
「大丈夫よ。たまたま……、っくしゅ」
(あ……まずいかも)
二回目のくしゃみを契機に、先程まで感じなかった悪寒がじわじわと身体を昇って来た。
これは……子供の頃から良く知った感覚だ。
「ずっとデッキにいたから身体が冷えたのかも…」
「そりゃ大変だ。おい!誰か余ってる上着貸してやれ!」
「シド、いいよ。自分のが部屋にあるから…」
大声でクルーに呼びかけるシドを制しながら席を立つ。
以前アイシクルロッジへ立ち寄った時に防寒具を購入していた。
その上着を取ってこようと入り口へと続く通路を通ろうとした時、低く通る声がした。
「……私ので良ければ使ってくれても構わないが」
「え?」
振り向くと、入り口の扉を背に、独特の紅い眼差しがこちらを見ていた。
「ヴィンセント!」
何時の間にそこにいたのだろう、相変わらず気配を一切感じさせない佇まいに驚く。
「おうヴィンセント、いたのかよ。丁度良かったぜ」
操縦席からシドがヴィンセントに手を振ると、小さく頷き床を蹴って私の眼の前に降り立った。
殆ど反動を付けない跳躍は、一瞬にしてドアへと続く狭い進路を塞ぐ形になる。
驚いて身動きが取れなくなった私に、ヴィンセントが顎をしゃくった。
「寒いのだろう?」
「う、うん。でも…」
こちらをじっと見つめながら僅かに瞳を細くするヴィンセントの手には、一見して防寒具の類は見当たらない。
長い前髪から覗く無感情な瞳に見下ろされ所在無く目線を彷徨わせていると、ヴィンセントがおもむろに自らの襟元へと手を伸ばしベルトの留め具を外し始めた。
え、と再び驚いたのも束の間、小さな金属音の後に視界が暗色に覆われた。
「きゃっ!?」
バサリと派手な音の後に、剥き出しの肌が柔らかな布に包まれる。
仄かな暖かさに閉じていた眼を開けてみると、思った通り、私の身体は先程まで彼が身に纏っていた深紅のマントにすっぽりと包まれていた。
「少々動きにくいだろうが、少しの間なら暖を取れるだろう」
「あ、ありがとう」
地面に着きそうな程に大きな布が、ヴィンセントの手が離れると同時に肩からずれ落ちそうになる。
慌てて開いたままの襟元を両手で押さえた。
「あなたは寒くない?」
聞きながらヴィンセントを見上げる。
防寒具の役目も務めていたであろうマントを外した姿は、そのすらりとした長身も相まって随分と軽装に見えた。
けれど私の心配を他所に、小さく首を振ったヴィンセントは視線を窓の外へと移し、そのまま腕を組んで黙ってしまった。
「ごめんね、ありがとう」
もう一度お礼を言って、同じ方向に眼を向ける。
部屋に戻るつもりだったけれど、今はヴィンセントの厚意を素直に受けておこう。
普段はあまり自分から他人に関わるような事はしない人だけれど……。
(優しい人……だよね)
段々と温まっていく体温を感じながら、ちらりと隣に佇むヴィンセントに意識を向ける。
私の視線に気付いているのかいないのか、ただじっと窓の外を見つめるその表情に変化は見られない。
出会った頃から常に寡黙な彼は、その表情や行動を見ても心の内が全く読めない掴みどころのない不思議な人だ。
元神羅のタークスの一員で、宝条の人体実験を受けてモンスターと同化する肉体を持つ。
(初めは近寄り難い人だと思っていたけど……)
ヴィンセントと初めて出会ったのは、この旅の途中、五年ぶりに故郷ニブルヘイムを訪れた時だった。
セフィロスに焼き払われ、既に跡形も無くなったものだと思っていたけれど……ううん、無くなったも同然。
神羅によっていつの間にか再建されていた故郷は、もう私の知っているそれとは全くの別物だったのだから。
外側だけの張りぼてにされた村に、同郷のクラウド共々ショックと怒りを覚えた。
それでも、セフィロスを追って村の奥にある大きな屋敷に向かって……そこの地下で棺に眠るヴィンセントを見付けた。
彼の話を聞いているうちに、セフィロスや神羅と繋がりがある事が判って……。
ヴィンセントがどんな経緯でニブルヘイムに閉じ込められていたのか、未だに彼の口から真実を伺うことは出来ないけれど。
セフィロスという共通の目的によって、今は私達と行動を共にしてくれている。
(……そういえば)
ヴィンセントはずっとあの地下室で眠っていた。
彼の話では、人体実験を受けたのは30年前だと言っていたから───。
「……そっか」
「……」
ぽつりと零した言葉に、ヴィンセントの視線が動いた。
「……どうした?」
「うん、あのね。ヴィンセントと出会ったときの事を思い出していたんだけど」
「ニブルヘイムか」
「ヴィンセントはずっとあそこで眠っていたのよね?私が生まれるよりずっと前から」
「………」
「私、小さい頃一度あの屋敷に忍び込んだ事があったの。パパや村の人達には古くて危険だから近付いちゃ駄目って言われていたけど」
ヴィンセントが眠っていた古いお屋敷は地元では神羅屋敷と言われていて、私が生まれた頃には誰も住んでいない空き家になっていた。
長年手入れのされていない外観は外壁が剥がれ窓が割れ、伸び放題の蔦が至る所に絡まって昼間でも薄暗く人を寄せ付けない雰囲気があった。
人気の無くなる夜は勿論、風が強い日は隙間風によって生み出される奇怪な音が鳴り響き、更に不気味さを引き立たせていた。
『あの屋敷には地下室があってね。そこの奥深くには怖い魔物が住み着いていて、迷い込んだ人間を片っ端から捕まえて食べてしまうんだ。ほら、あの音が聞こえるだろう?あれが魔物の唸り声さ。命が惜しかったら決して近付いちゃいけないよ』
大人達は良くそう言って子供達に言い聞かせていたけれど、私達の間ではお化け屋敷として好奇心の対象になっていて、肝試しと称して恰好の探索の場になっていた。
「友達と一緒に中に入ったんだけど、天気の良い昼間だったしそんなに怖くは無かったの。むしろ、この先に何があるんだろうって好奇心の方が強かったかな。色々見て回って二階に上がったんだけど」
二階は主に寝室になっていて、当時使われていたであろう埃まみれのベッドが何台も置いてあった。
特に目ぼしいものは無く、最後に中央の階段を挟んだ反対側を探索する事にした。
そうして、円形の大きな柱のある部屋へと入った。
「不思議な形だなって見てたら、その中から微かに声が聴こえてきたの」
「………」
その声は確かにその中から聴こえてきた。
途切れ途切れで何を言っているか判らなかったけれど、深い井戸の底から響くようなそれに、怖くなって一緒にいた友達と共に一目散に逃げ出したのを覚えている。
もしかしたら、大人達の話は本当だったのかもしれない。
その一件があってからは二度とその屋敷には近付かないようにしたから、それ以来あの声を聴く事はなかった。
でも……。
「でも……今考えたら、それってもしかして、あなただったんじゃないかと思って」
「私が?」
ヴィンセントが首を傾げる。
「うん。だって、あの声とても苦しそうだったもの。ヴィンセントはずっとあの地下室で悪夢に魘されていたんでしょう?」
「……私は寝言など言った覚えは無いが」
「でも、寝言言ってる本人は気付かないものよ?」
「……」
苦笑混じりに言うと、ヴィンセントが呆れたように小さく溜息を吐いて再び窓の外に視線を投げた。
そのまま口を閉ざしてしまう。
もしかして、機嫌損ねてしまった?
「ごめんなさい、違うの。もしあの声があなただったなら、あの時逃げないであなたを目覚めさせていたら、もっと早く私達知り合えたのにって……」
慌てて弁明すると、景色に向いていた視線が僅かに動いた。
「……地下の扉には鍵が必要だ。子供のお前にあのモンスターは倒せまい」
「それはそうだけど……」
「例えお前が私の元に辿り着いたとしても、私を目覚めさせる事など出来なかっただろう。あの悪夢は私自らが望んだ罰なのだから」
「でも今は私達と一緒に旅をしてくれてるよね」
「……私の罪は永遠に消える事は無い。この旅が終われば、また新たな悪夢が始まるだろう」
「……」
ヴィンセントの背負う罪がどれほどのものか、何も知らない私には想像もつかないけれど、遠くを見つめるその瞳には確固たる決意が込められていた。
口を閉ざしたまま、彼の意識はもうここにはいないのだろう。
私はそれ以上何も言えず、ただ彼のマントを握り締める。
その時、扉が開いてナナキが入ってきた。
「あれ?ヴィンセント珍しいねその恰好……って、あれ?ティファも?」
「あ、ナナキ」
不思議な炎を纏う尻尾を振りながら、ナナキがドアの前からこちらへ向かって勢い良くジャンプする。
ヴィンセントと同じく一瞬にして眼の前に立つ彼は、珍しそうに私の周りをクンクンと鼻を鳴らして嗅ぎ回る。
「ちょっと身体が冷えちゃって。ヴィンセントの借りちゃった」
「それならオイラに言ってくれれば良かったのに!オイラ自慢の毛皮でティファをあっためてあげるよ」
「ありがとう、ナナキ。今度頼むね」
「うん!任せてよ!」
甘えるように身体を摺り寄せてくるナナキの鼻を撫でてあげると、喉を鳴らして嬉しそうに尻尾を振った。
「艇長、そろそろジュノン上空に入ります!」
「おう!やっとご到着だぜ。ティファ、呼んでくるんだろ?」
操縦席からシドが声を上げる。
「あ、そうだった」
その声に時計を確認すると、予定時刻まであと10分を切っていた。
「どうしたの?」
「ごめん、ナナキ。クラウド呼んでくるからちょっと待ってて」
「クラウド?クラウドならさっきそこで会ったよ?」
再びドアが開く。
「あ、クラウド!」
ナナキが呼ぶその向こう側にクラウドが立っていた。
Next…SWEET DISTANCE 14
クラ誕SS第13話
後半は近日UP予定です。
クラ誕……これ始めたの2016年ですから、三年越しのお話ですね……最終更新も一年半前。
それでも未だ書きたい部分は書けていないという体たらくΣ(ω |||)
現時点でこのお話の更新を待って下さる方が何人いるか分かりませんが、一度書き出したものは何とかゴールさせたい気持ちは変わらずにあります( ̄^ ̄)ゞ
今回もティファ視点ですが、クラウドはほぼ絡みません。
二人のもだもだは後ほど……奥手の二人を意識させる為には皆に協力してもらうのが手っ取り早いのではないかな??
それではまた来ますね!
拍手&閲覧ありがとうございました(*^_^*)
【Warning!】クラ誕SS第13話です。ティファ視点。
SWEET DISTANCE 13
轟々と鳴るエンジン音と共に、強い風が束ねた髪を攫っていく。
流れに乱されたそれを耳の裏に掛けて───それから、どれくらい経っただろう。
「…………」
私の瞳は、もう、クラウドの姿を映していなかった。
だって、どれだけ見つめていたって、彼が"その"答えを教えてくれる事はないだろうから。
眼の前に悠然と広がる水平線をぼんやりと見つめる。
(……エアリスなら、すんなり聞けちゃうんだろうな)
『ね、クラウド?わたしのこと、どう思ってる?』
あれはセフィロスを追って初めてコスタに着いたその夜。
久し振りに再会したジョニーのアパートから帰宅して、ホテルの部屋に入ろうとして……ドア越しに彼女の声が聴こえて、つい足が止まってしまって。
エアリスとは相部屋だったけれど、その口ぶりからクラウドが一緒にいるのだと分かって……。
(あの時、クラウドはなんて答えたんだろう)
居たたまれなくなってすぐに外へ出てしまったから、クラウドがなんて答えたのかは分からないけれど。
ううん………知りたくないと思ったのが、本音。
(だって……あの素敵なエアリスだもん。私が男だったら、きっと好きになっちゃうよ)
クラウドだって………もしかしたら………。
(やっぱり私、臆病だな)
なんだか可笑しくなった。
あれからずっとその場面を心の奥にしまったまま、それでもこうして言葉に出来たのに………やっと言えたのがこんな状況なんて、全くもって意味が無い。
結局、以前と変わらない。
クラウドの気持ちが分からないまま、そこで安心している自分がいる。
「………」
もう一度、クラウドへ目線を移し、一呼吸する。
眼の前にある背中は変わらず沈黙したままだ。
「……、…ん」
立ち上がり、スカートの埃を掃う。
「……行くね」
今度は彼に背を向けて、屋内へ続く扉へと進んでいく。
強い追い風に押されて大きくなる歩幅を、それでも出来るだけ小さくなるように意識する。
引き止めてくれたら良いのに。
なんて、心の片隅で思いながら。
コックピットに戻ると、シドが数名のクルーと談笑していた。
艇内に戻ってから一度は部屋で休もうと思ったけれど、汚れたハンカチを洗うだけで出て来てしまった。
一人でいると、また余計な事を考えてしまいそうで……。
「よう姉ちゃん、調子はどうよ?」
「ええ、お陰さまで。ゆっくり休めたわ」
「そりゃ良かった。おおっと、そろそろ奴さんが近くなってきたか?お前ら、持ち場に戻れ」
「はい!」
シドの号令でクルー達が各自の持ち場へと散っていく。
それを見送りながら壁掛けのデジタル時計を確認すると、到着予定時刻まであと30分はあるようだ。
仲間達はまだ各々で休んでいるのだろうか、ここに集まっているのは私とシド、そしてクルーの人達だけのようだ。
入り口にはケット・シーのぬいぐるみが置いてあるけれど、様子から見て中の人はまだ戻って来ていない。
どうしようかと考えて、取り敢えず作業の邪魔にならないよう、普段ナナキやヴィンセントが待機している窓際に腰を降ろした。
「そういえばよ、あいつはどうだったんだ?」
流れていく景色を窓から眺めていると、操縦席からシドが顔を覗かせた。
親指をくい、と立てて小さく揺らしている。
「クラウド?彼ならデッキで眠っていたわ」
「はあ?あのクソ寒い所でかよ」
大袈裟に顔を顰めるシドに肩を竦めて苦笑する。
「部屋で休んでいたみたいだったけど、窓が開けられないから空気も篭るでしょうし……仕方ないわ」
「そりゃかっ飛ばしてる最中だからな。だからってよ、今度は風邪ひくんじゃねえのか?」
「確かにね。だからブランケットを持っていったの」
「へっ、気が利くねぇ。内助の功ってか」
「やだ、そんなんじゃないよ」
口に咥えた煙草の煙を細かに揺らしながらシドが笑う。
それに頬を膨らましながら、もう一度時計を確認した。
「ねえシド。あとどれくらいで着きそう?」
「ざっと20分てところだな。どうした?」
「近くなったらクラウドを呼びに行こうかと思って。クラウド、寝入ってるみたいだったし……」
「大丈夫じゃねえのか?仮にも元軍人だぜ」
「そうかもしれないけど念の為に……」
その時、微かな寒気が肌を走った。
「…っくしゅん!」
「おいおい、まさかお前さんが風邪か?」
「大丈夫よ。たまたま……、っくしゅ」
(あ……まずいかも)
二回目のくしゃみを契機に、先程まで感じなかった悪寒がじわじわと身体を昇って来た。
これは……子供の頃から良く知った感覚だ。
「ずっとデッキにいたから身体が冷えたのかも…」
「そりゃ大変だ。おい!誰か余ってる上着貸してやれ!」
「シド、いいよ。自分のが部屋にあるから…」
大声でクルーに呼びかけるシドを制しながら席を立つ。
以前アイシクルロッジへ立ち寄った時に防寒具を購入していた。
その上着を取ってこようと入り口へと続く通路を通ろうとした時、低く通る声がした。
「……私ので良ければ使ってくれても構わないが」
「え?」
振り向くと、入り口の扉を背に、独特の紅い眼差しがこちらを見ていた。
「ヴィンセント!」
何時の間にそこにいたのだろう、相変わらず気配を一切感じさせない佇まいに驚く。
「おうヴィンセント、いたのかよ。丁度良かったぜ」
操縦席からシドがヴィンセントに手を振ると、小さく頷き床を蹴って私の眼の前に降り立った。
殆ど反動を付けない跳躍は、一瞬にしてドアへと続く狭い進路を塞ぐ形になる。
驚いて身動きが取れなくなった私に、ヴィンセントが顎をしゃくった。
「寒いのだろう?」
「う、うん。でも…」
こちらをじっと見つめながら僅かに瞳を細くするヴィンセントの手には、一見して防寒具の類は見当たらない。
長い前髪から覗く無感情な瞳に見下ろされ所在無く目線を彷徨わせていると、ヴィンセントがおもむろに自らの襟元へと手を伸ばしベルトの留め具を外し始めた。
え、と再び驚いたのも束の間、小さな金属音の後に視界が暗色に覆われた。
「きゃっ!?」
バサリと派手な音の後に、剥き出しの肌が柔らかな布に包まれる。
仄かな暖かさに閉じていた眼を開けてみると、思った通り、私の身体は先程まで彼が身に纏っていた深紅のマントにすっぽりと包まれていた。
「少々動きにくいだろうが、少しの間なら暖を取れるだろう」
「あ、ありがとう」
地面に着きそうな程に大きな布が、ヴィンセントの手が離れると同時に肩からずれ落ちそうになる。
慌てて開いたままの襟元を両手で押さえた。
「あなたは寒くない?」
聞きながらヴィンセントを見上げる。
防寒具の役目も務めていたであろうマントを外した姿は、そのすらりとした長身も相まって随分と軽装に見えた。
けれど私の心配を他所に、小さく首を振ったヴィンセントは視線を窓の外へと移し、そのまま腕を組んで黙ってしまった。
「ごめんね、ありがとう」
もう一度お礼を言って、同じ方向に眼を向ける。
部屋に戻るつもりだったけれど、今はヴィンセントの厚意を素直に受けておこう。
普段はあまり自分から他人に関わるような事はしない人だけれど……。
(優しい人……だよね)
段々と温まっていく体温を感じながら、ちらりと隣に佇むヴィンセントに意識を向ける。
私の視線に気付いているのかいないのか、ただじっと窓の外を見つめるその表情に変化は見られない。
出会った頃から常に寡黙な彼は、その表情や行動を見ても心の内が全く読めない掴みどころのない不思議な人だ。
元神羅のタークスの一員で、宝条の人体実験を受けてモンスターと同化する肉体を持つ。
(初めは近寄り難い人だと思っていたけど……)
ヴィンセントと初めて出会ったのは、この旅の途中、五年ぶりに故郷ニブルヘイムを訪れた時だった。
セフィロスに焼き払われ、既に跡形も無くなったものだと思っていたけれど……ううん、無くなったも同然。
神羅によっていつの間にか再建されていた故郷は、もう私の知っているそれとは全くの別物だったのだから。
外側だけの張りぼてにされた村に、同郷のクラウド共々ショックと怒りを覚えた。
それでも、セフィロスを追って村の奥にある大きな屋敷に向かって……そこの地下で棺に眠るヴィンセントを見付けた。
彼の話を聞いているうちに、セフィロスや神羅と繋がりがある事が判って……。
ヴィンセントがどんな経緯でニブルヘイムに閉じ込められていたのか、未だに彼の口から真実を伺うことは出来ないけれど。
セフィロスという共通の目的によって、今は私達と行動を共にしてくれている。
(……そういえば)
ヴィンセントはずっとあの地下室で眠っていた。
彼の話では、人体実験を受けたのは30年前だと言っていたから───。
「……そっか」
「……」
ぽつりと零した言葉に、ヴィンセントの視線が動いた。
「……どうした?」
「うん、あのね。ヴィンセントと出会ったときの事を思い出していたんだけど」
「ニブルヘイムか」
「ヴィンセントはずっとあそこで眠っていたのよね?私が生まれるよりずっと前から」
「………」
「私、小さい頃一度あの屋敷に忍び込んだ事があったの。パパや村の人達には古くて危険だから近付いちゃ駄目って言われていたけど」
ヴィンセントが眠っていた古いお屋敷は地元では神羅屋敷と言われていて、私が生まれた頃には誰も住んでいない空き家になっていた。
長年手入れのされていない外観は外壁が剥がれ窓が割れ、伸び放題の蔦が至る所に絡まって昼間でも薄暗く人を寄せ付けない雰囲気があった。
人気の無くなる夜は勿論、風が強い日は隙間風によって生み出される奇怪な音が鳴り響き、更に不気味さを引き立たせていた。
『あの屋敷には地下室があってね。そこの奥深くには怖い魔物が住み着いていて、迷い込んだ人間を片っ端から捕まえて食べてしまうんだ。ほら、あの音が聞こえるだろう?あれが魔物の唸り声さ。命が惜しかったら決して近付いちゃいけないよ』
大人達は良くそう言って子供達に言い聞かせていたけれど、私達の間ではお化け屋敷として好奇心の対象になっていて、肝試しと称して恰好の探索の場になっていた。
「友達と一緒に中に入ったんだけど、天気の良い昼間だったしそんなに怖くは無かったの。むしろ、この先に何があるんだろうって好奇心の方が強かったかな。色々見て回って二階に上がったんだけど」
二階は主に寝室になっていて、当時使われていたであろう埃まみれのベッドが何台も置いてあった。
特に目ぼしいものは無く、最後に中央の階段を挟んだ反対側を探索する事にした。
そうして、円形の大きな柱のある部屋へと入った。
「不思議な形だなって見てたら、その中から微かに声が聴こえてきたの」
「………」
その声は確かにその中から聴こえてきた。
途切れ途切れで何を言っているか判らなかったけれど、深い井戸の底から響くようなそれに、怖くなって一緒にいた友達と共に一目散に逃げ出したのを覚えている。
もしかしたら、大人達の話は本当だったのかもしれない。
その一件があってからは二度とその屋敷には近付かないようにしたから、それ以来あの声を聴く事はなかった。
でも……。
「でも……今考えたら、それってもしかして、あなただったんじゃないかと思って」
「私が?」
ヴィンセントが首を傾げる。
「うん。だって、あの声とても苦しそうだったもの。ヴィンセントはずっとあの地下室で悪夢に魘されていたんでしょう?」
「……私は寝言など言った覚えは無いが」
「でも、寝言言ってる本人は気付かないものよ?」
「……」
苦笑混じりに言うと、ヴィンセントが呆れたように小さく溜息を吐いて再び窓の外に視線を投げた。
そのまま口を閉ざしてしまう。
もしかして、機嫌損ねてしまった?
「ごめんなさい、違うの。もしあの声があなただったなら、あの時逃げないであなたを目覚めさせていたら、もっと早く私達知り合えたのにって……」
慌てて弁明すると、景色に向いていた視線が僅かに動いた。
「……地下の扉には鍵が必要だ。子供のお前にあのモンスターは倒せまい」
「それはそうだけど……」
「例えお前が私の元に辿り着いたとしても、私を目覚めさせる事など出来なかっただろう。あの悪夢は私自らが望んだ罰なのだから」
「でも今は私達と一緒に旅をしてくれてるよね」
「……私の罪は永遠に消える事は無い。この旅が終われば、また新たな悪夢が始まるだろう」
「……」
ヴィンセントの背負う罪がどれほどのものか、何も知らない私には想像もつかないけれど、遠くを見つめるその瞳には確固たる決意が込められていた。
口を閉ざしたまま、彼の意識はもうここにはいないのだろう。
私はそれ以上何も言えず、ただ彼のマントを握り締める。
その時、扉が開いてナナキが入ってきた。
「あれ?ヴィンセント珍しいねその恰好……って、あれ?ティファも?」
「あ、ナナキ」
不思議な炎を纏う尻尾を振りながら、ナナキがドアの前からこちらへ向かって勢い良くジャンプする。
ヴィンセントと同じく一瞬にして眼の前に立つ彼は、珍しそうに私の周りをクンクンと鼻を鳴らして嗅ぎ回る。
「ちょっと身体が冷えちゃって。ヴィンセントの借りちゃった」
「それならオイラに言ってくれれば良かったのに!オイラ自慢の毛皮でティファをあっためてあげるよ」
「ありがとう、ナナキ。今度頼むね」
「うん!任せてよ!」
甘えるように身体を摺り寄せてくるナナキの鼻を撫でてあげると、喉を鳴らして嬉しそうに尻尾を振った。
「艇長、そろそろジュノン上空に入ります!」
「おう!やっとご到着だぜ。ティファ、呼んでくるんだろ?」
操縦席からシドが声を上げる。
「あ、そうだった」
その声に時計を確認すると、予定時刻まであと10分を切っていた。
「どうしたの?」
「ごめん、ナナキ。クラウド呼んでくるからちょっと待ってて」
「クラウド?クラウドならさっきそこで会ったよ?」
再びドアが開く。
「あ、クラウド!」
ナナキが呼ぶその向こう側にクラウドが立っていた。
Next…SWEET DISTANCE 14